"Logue"Nation

ローグネーション。言葉と図像を手がかりにまんがを「私」が「読む」自由研究サイト。自費持ち出しで非営利。引用画像の無断転載を禁じます。

2020年、おもしかったまんが・十一選

1、三島芳治『児玉まりあ文学集成』

ぶっちぎりで一位。いやー、凄い本に出会った。

2、橋本悠『2.5次元の誘惑』

まんが家編がいい。続刊8巻に収められるはずのある回のある台詞について、ジャンプ+のコメントの反応がけっこう興味深かった。これは後日取り上げてみたい。少年まんがの主人公が感情昂ぶった台詞を言うとき、その台詞は「正しく」なければならないのか、という問題である。

3、おりもとみまなばくおん!!

ニコ動のdアニメストアに12月になってアップされ、仕事の逃避で何の気なしに1話を見たら、めちゃくちゃおもしろく、くそ忙しいのにそこから全話観てしまい、さらにまんがを全部購入して読んだ。アニメはバイクの動きと音が何より気持ちいい。まんがは、ある一面において、『こち亀』の自分が大好きな時期の、現代風アップデートといえるところがメチャクチャ好み。作者が対象に対してどこか覚めているあたりもいい。あまりまんがには詳しくないが、「定型+偏差値高めのパロディ+作者が好むニッチな題材」というのは00~10年代まんがの典型だと思う。だが、そのなかで恩沙(モジャ)というキャラクターは、他に類例を見ない、作者にとって一種の「発見」だったのではないか。恩沙については稿を改めて別に述べてみたい。それとは別に、「みるきいキャンディ」がいつの間にか静岡でカリスマ化してるのがまじで笑う。

4、安田剛助『じけんじゃけん!』

今年完結。互いに次の動きを読み合う回とかのパターンが好き。

5、町田粥『マキとマミ』

このサイト復活の直接のきっかけ。「二次創作界隈まんが」(その嚆矢は『げんしけん』なのかな)隆盛だが、そこに当然訪れるはずの「衰退ジャンル」がテーマになるという成熟ぐあいよ…。私は二次創作には興味はないのですが、90~00年代の無料ホームページ文化にはそこそこはまっていたので、いろいろ自分に置き換えられるところがあっておもしろかった。あれだけあったホームページの管理人たちや書き込んでいた人たちは今何をやってるのでしょうね。

6、長田悠幸、町田一八『シオリエクスペリエンス』

相変わらず進化し続けるバンドまんがの最高峰。自分のなかで、「ロック」にも賞味期限があったのかという驚きを抱いてからすでに二十年ぐらい経つが、「ブルース」という言葉と、60~70年代の再発見という筋立てで、ロックまんがをいま成立させえていることがおもしろい。個人的な性向ながら『BECK』が自分にはどうにも読めなかったのに『シオエク』は読めるのはなんでだろうと自分に問うとき、「ロック」幻想との距離感が関わるような気がする…。まだ言語化できないが。そんな理屈よりなにより、表現が凄い。
7、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、小梅けいと『戦争は女の顔をしていない』

この作品を、まんが化しようと思ったこと、またこの形でまんが化しえたことに脱帽。あの戦争は、まだまだ多面的に語られなければならない。

8、さと『神絵師JKとOL腐女子

片方が高校生以下の年の差カップルものは、性がどうであろうが自分の基準ではアウトなのだが、相沢(アイ)が楽しいので読んでしまう。<ポンコツだけど有能>ものが本当に自分は好きなんだな、と自覚。「尊い」という感覚はよくわからないのだが、焼く肉を食べに行って疲れ果てて寝たミスミ神の焦げた焼き肉を、起こしながらさりげなく自分の皿に入れているアイは尊いということでOKだろうか。
9、都留泰作『竜女戦記』

壮大な偽史でその筆致が凄い。が、アイデアぶち込み過ぎのようにも思う。ここからどう展開するのか。夫を立てる主婦主人公というのは面白いが、そもそもこの世界がどういう通念(倫理観・ジェンダー観)の世界なのかなのかが二巻だとまだちょっと見えないように思えて、まだ乗れない部分はある。今後も読もうとは思う。

10,若木民喜神のみぞ知るセカイ

若木民喜畑健二郎の対談を読んで、ふと『神のみぞ知るセカイ』ってちゃんと読んでいないな、と思い、コロナ禍下に全巻購入して読んでみたら面白かった。ネットでいくつか批評や感想も読んだが、どうも自分の読み取りや実感とはかけ離れているので(もちろんリアルタイムの読者の情熱に、後出しじゃんけんで述べて優越を誇るのが愚であることはわきまえているつもりだが)、何回かにわけて語りたい欲望にとりつかれている。

11,泰三子『ハコヅメ』

依然として面白い。初期は『モーニング』はこういうお仕事まんがが書ける人を探してくるのが本当に上手だなあ、という感想だったが(絵柄のぎこちなさも含めて。絵柄がぎこちないお仕事まんが・業界まんがの傑作が本当に多い)、同期の桜編ぐらいから、「作者の固有の体験を創作に落とし込む」だけにとどまらない、「一歩先」のレベルへと行き続けていることに感嘆する。映画ブロガーの三角絞めさんにも感じたが、警察組織から作者特定されて報復されないか心配。

『ハコヅメ』が描くトイレの近さや生理のつらさとか、それとは全然違うけど『ばくおん!!』のバイクへの足のつかなさなど、女の視点からの男性標準社会の生きづらさがポップに題材になっているのは、ここ5年ぐらいの明らかな変容だといえそうな。

 

次回から数回、『神のみぞ知るセカイ』私注を書いてみたい。副題は「恋の感情を操って現実世界を救うことの悲壮と記憶について」と決めた。