1,三島芳治『児玉まりあ文学集成』(リイド社)
2年連続俺1位。3巻刊行するもおもしろさは衰えず。この本が5億部売れていないのが不思議と言わざるを得ない。
「言葉は人の心に効くわ/人の心にしか効かないけど/猫の心にも通用しないし石ころも動かせない/現実の威力を持たない/人間の心を動かすためだけの単なる信号/高度なコードよ」
正面から『古今和歌集』「仮名序」に喧嘩を売っている。最高じゃないですか。
2,長田悠幸、町田一八『SHIORI EXPERIENCE』(スクウェア・エニックス)
音楽まんがの金字塔。えっ、すばる先生が? 燃えるほかないじゃないですか。
今年コミックス完結ということで。よくこれを描ききってくれたと感謝するほかありません。個人的にグッとくる忘れがたいエピソードは、
・おみつ(加納久通)が恫喝される場面(あの、女に対して声を荒げることを強さの示威としている男を対象化してみせているあたりから、男女を逆転させたことの意味の一端がじわじわわかってくるあたりが本当に好き。おみつは清濁併せ持つ切れ者の腹心だが、といって全て計算づくで荒げさせているのではなくて、荒げられることが苦手、でもそれはそれとして、というのが絶妙にいいのだ。女の権力者が男の権力者とは違う権力の在り方を持っていることをきちんと見せているところにSFとしての強度があるように思う)
・家斉編(そもそも手に汗握るサスペンスとして秀逸のうえに、青沼・源内編の失意が、そこで種まかれた人の思いが細い糸のように伏流していって結実してゆくのがグッッとくる)
・阿部正弘のエピソードの全て
あたりですかね。
これも今年コミックス完結。アーネチカの顛末に悲哀と無情を覚えつつでもああ描かれると彼女にはあの最後しかなかったようにも思える。
そして、何より軍閥(!)のくだりね。世界があそこで一気に転倒する驚嘆。
5,服部昇大『邦画プレゼン女子高生 邦キチ! 映子さん』(集英社)
初回から楽しみに読んでいるが、特に今年については、エヴァ回がネット上で盛り上がっておもしろかった。「考察がもう伝播してる! まさにエヴァ的だ!!」と作中で語られるが、その回を含めて、江波の恋の行方、ひいては邦キチと部長の関係に及んでネット民たちが考察を繰り広げているさまを見て、私は「考察がもう伝播してる! まさに邦キチ」とつぶやいたという。
いろんな人が書いていたが、エヴァを語らずエヴァを語るという芸当がたいへんにすばらしい。
27巻、ここにきてタイトル回収!
フィクションの愉楽。コミックスで、ポッポのポテトに言及されていたけれど、あれは坂戸駅のイトーヨーカドーだろうか。
8,くずしろ『笑顔のたえない職場です。』(講談社)
7もそうですが、まんが家まんが、好きなんですよ。はーさんがよい。天才の描き方がたいへんによい。若木民喜『16bitセンセーション』なんかもそうだけれども、天才の描き方を知っている作者の作品は本当に信頼が置ける。
9,ビュー『レッツゴー怪奇組』(小学館)
「はーっ」が流行ってほしい。腹抱えて笑う。言葉の置き方が良い。
10,小林まこと『青春少年マガジン1978~1983』(講談社)
2014年刊だけど、今年読んだ本ということで。「あのころ回顧まんが家まんが」、つまりは「まんが道」まんがは、『アオイホノオ』あたりから隆盛を誇っている。そしてそれらが、それぞれの「テラさんの末路」をどう描くかに、私の興味の一つはある。そういうことを全く描かない作品も多いが(生存者バイアスに無自覚か、あるいは割り切っておもしろく演出する方向に決め込んでいるか)、正面から、あるいはさりげなく描く作品もまた多い。そのなかでもこの作品は考えさせられる作品。さすが小林まことと言わざるを得ません。
80年代少年まんがの周辺は業界そのものが本当に狂気じみている。細野不二彦も自伝めいた作品を描いているらしいのでそちらも楽しみ。
参考: