Logue Nation

「ローグ」ネーション。言葉と図像を手がかりにまんがを「私」が「読む」自由研究サイト。自費持ち出しで非営利。引用画像の無断転載を禁じます。

『こち亀』野郎!―『こち亀』追跡200キロ:26~30巻

26巻

両さん
モチャ歴30数年 人は私を生きたGIジョーとかリカちゃんのお友だちわたるくんのかくし父親とよぶ……」([両さんの留学!?]p159)とあり、このころからおもちゃウンチクが見えてくる。
 <手先が器用+プラモ+おもちゃ>、の三位一体については、24巻「■両さん」の項を参照のこと。
■部長
当なんですか一億数千万の税金って!?」「はい」
「この男は金をためるなど不可能です 10万円ためるにも100年はかかります」「し…しかしそういわれても…」
「きっとなにかのまちがいです もう一度調べてください」「はあ……(汗)」
([スペシャル税!?]p152-2)という税務署の職員とのやりとりがある。
 いうまでもないことだが、部長は決して両さんのことを思いやって調べ直しを求めているのではない。「この男は金をためるなど不可能」という絶対的確信に導かれているがために、調べ直しを求めることをためらわないのであった。

日署長におまえをアメリカにいかせてくれとたのまれてきたよ」「アメリカ!?」
「なんでアメリカへ!? 戦争でも始めるんですかい!?」「その引き金にならんよう気をつけてほしいんだよ」

「それで夜行でいくんですか?」「なに!(ピク)」
「あ いや! その顔は否定ですなするとズバリ船! あこがれのハワイ航路かなんかで……」「飛行機でいくんだよアメリカの」
アメリカの…てえとB29で?」「戦争からはなれろおまえ」 
(p160~) と気が気でない部長だけれども、出発のまぎわ、「両津 くれぐれも気をつけていってこい」(p170)と声をかけているのは、両さんのそっけない返事にあわせてさりげないコマだが、心配している部長の姿がほの見えて、よい。
■御所河原組長
の巻ではまだ名は明らかにされていないが、とにかく初登場。この稀代のキャラクターについては、『御所河原組長集』にて別に示したので、よろしければご覧ください。

●その他ノート:
津式貯蓄法!?]は、数多い「両さん金儲け話」でも名作のうちに入るだろう。なにが名作かって、両さんが金を貯めているというだけで中川と麗子が真剣に驚いているのがいい。この驚き方には、ギャグまんがだからといったような、照れや甘えがない。
「金をためてるんだ 多少の犠牲はやむをえん」「えっ先輩が!!」「貯金を!」(p46)

「1800万円です」「1800万円!?」「☆」(p50)

「10日目の900万円ってどこからもってくる気かしら…」(p52)
とくにp52の麗子の表情は特筆すべきだろう。この顔には、決して【汗】が付されていたり【あきらめ顔】をしていたりしてはいけない。この顔でなければならない。

ンコ電車]は都電荒川線が主人公。のちにトローリーバスも取り上げられるようになる。こういう、東京が忘れてしまったものをすくいあげるのは『派出所』の得意技。ちなみに、轟の三つ子の息子はいうまでもなく『魔法使いサリー』より。
箴言
「128字か…… 小学校2年生なみだな……」 (p28)
 「警察官」と書けと言われて「軽殺管」と書き、名前を漢字で書けといわれたが「勘吉」が書けずとつぜん「両津一(はじめ)」に改名してしまう両さん
「今となってはあとのカーニバル…」 (p54)
 ほかに「ちりもつもればマウンテン」(p56)とも。


27巻

■佃名誉警視正
巻[新雪之城変化!?]にて早くも「しらない間にきえちまったぞ」と言われてしまう。

箴言
「ひとつきくが包装紙に新東京国際空港とかいてあるのはなぜだ?」「ちがいますよ 東京(トンキン)空港とかいてあるんです 北京(ペキン)のとなりの東京(トンキン)に帰り経由したのでそこでまとめて……」 (p92)
 一発でバレるウソ。

「ごくありふれた量産型のじいさんでしょ」 (p124)
 量産型という発想はもちろんガンダムなどによると思われる。

「キャプテンの弦左ェ門さん チームをつれてきましたよ! 始めましょう」「え!? なんだって!? 赤線はもうありませんよ」(p186)
 なにげに赤線ネタがたまに出る。両さんの地元・台東区千束も、巻が進むにつれあんまりおおっぴらには言われなくなるけれど、吉原であるし。

「つまりかれらはなぜ世間でおちこぼれとよばれているか 現代社会におけるパフォーマンスにエキストラクターでよって引っぱられエジェクターではじきだされる つまり排挟ですよ」「もう少しわかりやすくいってもらえますか?」(p191)


28巻

■島雪之城
回しか登場しない(のちに一回、星逃田と登場)。
 八頭身ヤサ男キャラの先蹤としては、いわずとしれた中川がいるが、キャサリンとの絡みもあわせて、雪之城は<少女まんが>テイストを前面に出すキャラクターであるところが中川と異なる。
 星逃田がコマやバックさえも劇画調に変えてしまう<劇画>テイストのキャラであったのを変奏して、コマやバックを<少女まんが>に変えてしまうキャラとして登場させたのが雪之城であった、と見取り図を描くこともできよう。
 これに対して両さんは全力で抵抗している。「この漫画は恋愛ゴッコ漫画じゃねえんだぞ」(p29)といい(注釈は「最近ふえた少女漫画もどきの身の毛もよだつ少年漫画。」とある)、また「おまえみたいのがあらわれるから少年漫画がメチャメチャになんだよ」(p30)とも。それから十五年余を隔てて、両さんその人が少女まんがのキャラクターにまでなってしまうことをこのときの両さんは夢にも思っただろうか。いやはや。

 前巻登場の佃警視正といい、雪之城といい、<あわよくば定着させようか的新キャラクター>模索の時期だったのかもしれない。

 ちなみにこの回、注釈が頻出しているのは、時期からいって田中康夫『なんとなくクリスタル』を受けているか。

両さん
ンコール雪之城]でTVゲームに興じる両さん「21世紀はすべてがコンピューターだ/だから先を読んでTVゲームのプロになる」「そこがよくわからないな……」(p47)。[両さんの商才!?]でも、又崎の持っていたプラモやレコードを、口八丁で売る。どうもこのあたりから商売人としての才覚が強調されていく感。下にも述べるが、28巻あたりは転換点か。

会いはドラマ!?]では部長によって、「もう30の後半だぞ」(p63)と言われている両さん。このあたり、お見合い話が少なくない。

●その他ノート:
雪之城変化!?]の冒頭は、なつかしキャラのその後について触れられている。なつかしいことそれ自体をギャグとしようとする、のちの星逃田の扱われ方とはやや異なり、この冒頭はうがった見方でいえば、初期『派出所』の清算のにおいがする。道を尋ねる新潟出のおじさんが後ろ姿しか見せていないそっけなさもその理由の一つ(じっさいには30巻[親子水入らず!?]でもう一度登場するが)。フータローたちが住み着いていたことは触れられなくなっていき、亀有公園はクリーンな場となっていく。
 [新雪之城変化!?]を『派出所』の数度の転換点の一つと見なしておいていいかもしれない。

ルゴ13』ばりの身のこなしが印象的な(p154-1)、[根暗世代]に登場する根暗な青年は、ほかの根暗キャラの回に比べ、ぶつかってきた女の子の自転車を壊してそのままで、その点において救いがない。『派出所』では、根暗な行為によって迷惑をかける根暗な人物が、その話のなかで性格改善されることはめったにないのだが(これは『派出所』における人間観を表していよう)、この青年は群を抜いている。
箴言
「ヒゲもそりなさい 私と似ていて不愉快だ」 (p84)

「それじゃぼく家に帰ってわら人形つくる作業があるのでさよなら」(p145)
 なんでこういう去り際のセリフがおもしろいんだろう…。



29巻

■本田
さんに巻き込まれる本田、のスキー編。不遇の本田像はこのころ確定するといえる。21巻「■本田」の項、参照。

 さて、本田の失恋話はすでに何回か見えていたが、本格的にそれを描いたのが、アメリカ研修編(27~28巻)で知り合ったサンディが訪れる[ハローグッバイ!]。
両さん
キの時分草ゾリや手作りのスキー板であそんでたからな」([山は友だち!?]p7-2)とあるが、そのコマの回想シーンの両さんの髪型は、のちに回想されるような坊主ではなく、坊ちゃん刈りのように見える。過去キャラの顔はこの時点ではまだ安定はしていないと思われる。

じくスキーの回で、遭難した女性二人と会って、「いや! 我われは救援隊だ もう心配ないぞ/迷子といったら相手がよけい不安になるだろ!」(p18)というように、さりげないが気を使っている両さん。【いざというとき頼りになる】両さん像であり、雪山遭難というのは、のちにも署長・部長と回にも引き継がれる。

子の春!]での「おまえだおまえ! ちょっとおりてこい!」(p154)という両さんも、無条件でいい。
両さんと両津家
ローグッバイ!]で両津母が初登場(p165-1)。
 物語上、その意義がすこぶる大きいものであることを指摘しておきたい。なぜなら、母と面と向かっては会わない(会えない)両さん、というのは、『派出所』20巻ぐらいまででは、両さんの<男としての在り方>(ダンディズム? 意地? 照れ?)を示すものとして意味づけられていたはずであったからである。「大人の男」にとっての「母」とはこういうふうに接するものだ、こういうふうにしか接し得ないものだ、という、ある種の理念型を、両さんは、また物語は、提示してきたはずだった。
 けれども、この回は、積み上げてきたそれらをあっさりと乗り越えてしまう。何のためらいも動揺もなく、両さんは実家を訪ね、母・よねも、「なんだ? 勘吉じゃないの? どうしたんだい突然……」(p165-1)と、せいぜい突然であることに驚く程度。もちろんそれは、長期化する物語にとっては悪いことではなく、『派出所』が両さんの実家も舞台の一つとしたことはこののちの作品空間をより広げることになるのだけれど、それは、<実家>に対する心理的隔たりを20巻以前が描いてきたことと引き替えに獲得したものであるといえるのである。
 やはり、28巻あたりを、『派出所』物語世界の転換点の一つと見なして、よさそうだ。
■麗子と部長
子が部長をどう呼ぶか。じつはこの点からも、20巻代後半転換点説を裏付ける特徴を見出すことができる。

部長娘さんを嫁いりさせてすっかりふけこんだようね」…「でも人すきずきで両ちゃんを魅力的だと思う人がいると思うわ」([心のこり…]22巻p120-3~)

「麗子くんすまないね料理手伝ってもらって…」「いいえいいんですよ」([サバイバル新年]23巻p90-2)

部長さんもうすぐ始まるわよ」…「だいじょうぶよ たった15分間ですもの 両ちゃん中心にうつすわけじゃないもの」([視聴率競争!]25巻p166-1~)

部長/この字なんてよむの?アラビアの象形文字みたいな字」([書は人なり]26巻p42-3)

部長は気まじめすぎるのよ たかがお馬ゲームじゃない」原文ママ。[惑惑中年!?]26巻p-97-4)

「おはようございます」…「部長さんこのごろきげんがいいですね」([両さん帰国す!]27巻p84-1~)

「メリークリスマス部長さん([わが青春の桜田門]28巻p18-4)

「楽しみですね部長さん([マナ板のゴキブリ]36巻p86-7)

部長の呼称が、「部長」から「部長さん」へ、揺れる時期も挟みつつ、変化してきていることがうかがえよう。
 これとともに、タメ口(常体)だったのが、しだいに丁寧語(敬体)に変化していっていくことも見て取られる。
 このことは、麗子の位置づけの変化をみごとに示すものであろう。登場初期は、上司にもタメ口の、有能だけど生意気、はすっぱ(死語?)な女の子キャラだったのが、そういう性格は一部(具体的には、対両さん)に残しつつも、優等生的なキャラへと変貌していっているのである。
 トラブルメーカーになる回も、今後ないわけでもないのだが、それらはむしろ「意外さ」とか「女が怒るとおそろしい」的なところに回収されるたぐいのものであって、麗子その人が率先して両さんと組んでトラブルメーカーとなるというようなあり方は失われていく。
 麗子が本当にキャラとして魅力的なのは、10巻代である、と個人的には思います。
■洋子
子再登場([洋子の春!])。「小さいころから両さんをみてて警察官にあこがれていたの……両さんって人間味があってとても素敵でしょう」(p156-5)といい、この回の冒頭が中川に「そんないいかげんだから見合い相手にきらわれてしまうんですよ」(p140-4)と言われているところとの平仄を考えるとき、両さんと洋子というカップリングへの進展が期待される。しかしながら、洋子はこのあと物語世界に登場することなく現在に至る。


●その他ノート:
ジャーネタ、不動産ネタ、戦車・車・飛行機のホビーネタ、と、のちに繰り返されていくパターンは、このあたりでかなり確立されてきているようである。

巻の[雪之城変化!?]にも、少年まんがの少女まんが化が皮肉られていたが、本田の失恋を描く[ハローグッバイ!]が、麗子の読んでいる「ついに少女まんがとの区別がつかなくなった」(p159-5)少年誌からスタートしていることに注意してみたい。
 こういうまんがに対して両さん「最後は結局ハーピーエンドじゃないか…」(p159-1。原文ママ)と言っているところは重視すべきだろう。少女まんが化する少年まんがのお手軽な恋愛へのアンチとして、本田は失恋すると読めるのである。
 「月は遠くでみるからきれいなんだよ…/わしなぞなん度アポロになったか数えきれん」(p191-3)という、両さんにしては唐突なセリフにも、反「お手軽な恋愛」的志向を見てとることができようか。
箴言
「今どき木炭バスなどと…すごいところだな」「初期のちばてつやの世界ですな」 (p29)
 <東京近郊の田舎>の描き方って、部長の家への道にしても、寺井の家にしても、えらく筆がすすんでいる感がある。

「なんだとてめえーっなめんなよ! オレのツッパリはハンパじゃねえぞ/足がよくツッパルからトクホンはってんだぜ どうしたくるかおい!/メリケンパンチをくらえ!」(p65)
 原宿にいるヘンなツッパリ。
 あっさり両さんに歩道橋からつるされて、「や…やめろおい じょうだんだろ! くそっ はなせ! いや……はなすな」。セリフとしてはこちらもよい。


30巻

■両津家
菓子屋とおもちゃネタが見える([両津コレクション!])。初期のおもちゃネタ、コレクターネタでは、往々にして両さんがその価値を知らないパターンが多い。
 両さんはコレクターやマニアとしての風貌を徐々に増していくけれども、多岐に渉る分野の、だいたいにおいては、じつは両さんは初めからマニアなのではないことが指摘できる。

マニアにやや引き気味に傍観者の回(両さんは聞き役。笑いどころは、価値がわからないところ。)
  ↓
マニアと同等に渡り合う回(中途半端な知識ながら価値がわかる。笑いどころは、色気を出して失敗してしまうところ。)
  ↓
マニアを相手に商売までできてしまうぐらい蒐集もし、また知識もありウンチクも垂れる回(主に聞き役は中川・麗子。大がかりに商売欲を出して大失敗という笑いどころか、または情報まんが的扱いで終わるか。)

という類型をたどる傾向がある。アンティークおもちゃもまた、両さんは最初からオーソリティだったわけではなかったのであった。

 付け加えれば、自転車を直して売ろうとする[リサイクリング!]とともに、商売人ぶりが随所に強調されはじめていく。「金のためなら…なんでもします……ははは……」(p93)が象徴的。

●その他ノート:
p46やP68など、構図に凝りはじめている。


箴言
「日本の最大排気量は230ccにすれば兄さんが乗るニイサンライダー」「ムチャいうなこいつは!」(p36)

「涙くんさようなら!」(p128)




(2001/10/09。02/07/24改訂、08/14二訂。2021/09/19再録)