36巻 |
■ムッシュ・塩浦
- 4階建てバスの成功の半分は、この人の天才によるところが大きい。
- 「ニーハオ ボンジュール わたしなんでも作るメルシー ぜひたべにきてねグラッチェ」([ノガミブルース]p13-4)
どっからこんな逸材を見つけてくるのだろう…。
■両さん
- アイデアを求められる両さん、というパターンがのちに固定化されるが、おそらくその初発が、[ノガミブルース]。
発明やアイデアネタの素地は、数巻前からあるにはあったが、実際に両さんその人が他からアイデアを求められるのはここが初めてのよう。
本巻は、なんといっても連作[両さんの長崎旅行]があることでわたくしたちに記憶される巻である。
- 「それが給料日前なんでオケラなんだよ
あっ あれ? ポケットに金が入ってた!?」([両さんの長崎旅行(1)])
ということで(モデルガンを6丁買ってしまったのと同じミスである)、長崎までの珍道中が描かれる。アメリカ研修以来の長編だが、こちらの方が味わいがある。 とりわけおそらくは人気が高いであろうエピソードは、勝手に親戚と思わせて老夫婦のところに上がりこんでしまい、強引に一泊しつつも、その老夫婦にはじつはバレている、という(3)のエピソード。 この話の、さりげなくいいところは、最後に本田にこのおじいさんが言うとおり、最初は感情を表に表さなかった夫婦が次第に笑顔になっていく過程が描かれているところです。
両さんに関していえば、[署長の息子]で、絡んできたチンピラとのやりとり、
- 「おまえ地元か?」「だったらどうだというんだ」
「それじゃなおさらゆるせねえ!」「うわっ」(p59-9)
も記憶に残るところ。
警視庁からの手配書によれば、
- ・まゆげが太い
・目つきが悪い ・角がり ・Tシャツ ・声がでかい、目立つ。 ・名所などにあらわれる。 ・一見ヤクザ風実は警察官
■梅田
- 大阪府警の刑事。両さんとの大阪と東京のけなしあいをするために登場。「治安の良さも大阪が日本一ですよ 警察官の信頼は天下一品」「人が死んでも2年ぐらい発見されない東京の治安には負けますわ はは」(p131)が秀逸。
警視庁の警察官たちには東京の地名をあてられる傾向があるのだが、ここも大阪の刑事が「梅田」、長崎の婦警は「島原」って、じつに安易でよろしい。
■部長と両さん
- やはり、長崎旅行編のなかでのやりとりがすばらしい。
・アップが続く、長崎がどこかをめぐって繰り広げられる息を詰めるような緊張感あふれる心理戦。
・なんだかんだいって、真顔で餞別をやっていることもさりながら、「見聞を広めたい」という両さんが有給をほしいと言ったとき、「そういうことなら」という感じであっさりと有給をあげる部長。 こういう、わかるところはわかる上司像、ってのを基本的に持っていることが、ギャグまんがの凡百の「怒鳴り系キャラクター」とは一線を画すところかと思われる。少し堅物だけど上質の常識人、ってのは、常識を持っている作者にしか書けません。このことは、前期『派出所』の特質として、少なからず強めに主張してもいいことのように思います。動静を有効に処理するのがギャグの基本だとたぶん多くのギャグ作品はわかっているはずなのだけど、その「静」を描いたつもりで描けてない場合ってのはあります。その「静」を描くときもっとも必要なのが、上質の常識と、それを裏打ちする<教養>なのです。 とにかく、金と時間のホントの使い方を知っている、いい上司だ。まあ両さんの方にしてみれば方便なんだけども。
■中川・麗子・本田
- 両さん行方不明の報に、全く動じないでむしろお祝いを開こうとする部長も部長だが(p180-4)、さらに心配する本田に、中川と麗子は生活はできているはずだと推測しているのも(p181-4)、部長ほどではないにせよわかってらっしゃる。部長 > 中川・麗子 > 本田 の構成。
●その他ノート: 余談であるが、私は『奇面組』の大ファンだったので、この巻末コメントが新沢基栄氏であり、かつ「もうダメ! もう思い残すことはない! あっぱれ!!」というコメントがいかにも新沢テイストで、うれしい。
◎箴言集
- 「外車ディーラーからはローンということばはでなかった 外車を買う人種にはローンなどタブーなのだろうか」(p28)
「ちょっと! ひと箱250円だよ! 全部で750円!」「昔は100円だったじゃないか!」 「それは5年前の話だろ! 両さん」「その100円は5年前に作られた物だから当時の値段で買えるはずだ」(p55) こういうのは「値切る」とは言わない。
「会社に勤めてコツコツ働くより一攫千金の芸能界に入って男の子に騒がれミニスカートで人前で歌うなんて地味で清純な女の子じゃないとできない仕事だ!」 (p84) 普遍の箴言である。
「おまけにエンジンは2400シーシーにボアアップしてるし」 (p145) このコマの何がおもしろいかはめいめいで考えてくれたまえ。
「ばか者! わけてもらったんじゃないか合法的に!」 (p146)
ガンマひとこけ10万円4回半こければ新車が買えてしまうのだよ 警視庁 (p190)
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37巻 |
■中川
- 本巻一話め、[ニュー中川!]で、「デビュー以来ずっと同じ服装でしたからね 7年もたつと流行も変わってきますよ/そこで現代風にマイナーチェンジしたんですよ」(p10-4)と、イメージチェンジが図られている。髪型も長髪ではない。
このイメージチェンジは次巻で元に戻される。次巻参照。
[ ニュー中川!]でも、マジボケが光る。
- 「中川! わしのは!? わしにもくれ!」「え?」
「もちろん!ですよ まかせてください ピッタリなのがあります」「へへへやった!」 「ケンタッキー火打石式ピストルです」 「こんなもので銃撃戦ができるか」「先輩は渋めが好きだといってたから」 「わしは古美術商じゃねえぞ もっと最新式のやつをよこせ!」「はいはいそれじゃリボルバーの中から 明治二十六年に作られた二十六年式回転式弾装拳銃はどうでしょう」 (p13-1)
このノリは、『Mr.Clice(ミスター・クリス)』に変奏されている。
- 「こっちもそれなりの銃を用意してあるんだろうな」「もちろん」
「おまえの国の三八式歩兵銃を用意した」「こら!!」 「いまのはギャグだ わしのコレクションをみせたかったのでな」「硫黄島を攻めにいくんじゃないんだぞ!」 「アメリカ製ファルコンⅡパチンコ! 玉100発つき」「そういうつまらんギャグばかりしてると日本へかえるぞおれは!」(『Mr.Clice』1巻(1989。初出1985)、p25)
■部長
- 本巻も、「子どもと変わらんからな 4歳児と同様だ」(p29-6)、「ところで両津はどうした…死んだか?」(p107-5)など随所にセリフが光るが、両さんとのからみでいうなら[結婚の条件]を挙げておこう。
麗子が断りたい見合いを両さんに女装させ破談に持ち込もうとするこの話、とうぜん断ろうとする両さんに金を見せ、両さんの態度がコロッと変わるのはお約束だが、500円札というところが泣かせる。 耳の穴に隠した宝石を見つけるのも、知り尽くしている所業でありましょう。
両さんが高尾山の松茸騒動を治めに派遣される[秋深し…]、両さんはヘリから落とされてそのあと忘れ去られるが、それが報道されたテレビを見た部長、
- 「そうか 両津のやつ 番人として山においてきたんだ!」(p169-3)
そんなこともあったなあ、という感じの反応。というか、このあいまいなテレビ報道から一発でそれが両さんであると見抜くのもどうかと思う。 さらに言えば、その両さんを捜しにいって両さん発見、そのときの部長のセリフ、
- 「おっ両津いたか! 心配してたぞ」(p170-4)
いや、心配してなかったと思う。
■両さん
- おもちゃ会社の社長の製品を売り込みに回る両さん([転職!?])。
『派出所』(とくに中期)は、下町の中小企業への優しい眼を持っている。
●その他ノート: 30万のラジコンヘリが打ち落とされて、部長から代わりにプレゼントされたおもちゃのヘリに両さん、
- 「これではまるでビックワンガムのおまけだ!」(p23-5)
ビッグワンガムってまだあるんですかね?
昨今の医療不信を先取りしたのが[人間顔じゃない]。
- 「50c.c.のバイク買えちまう値段じゃねえか! こんな薬のどこが15万もするんだ」ポリボリ
「保険がききますので……38円でいいです」コト「極端すぎるぞおい!」(汗)(p31-2)
顔を一切見せずにあくまで冷静な受付嬢。この3コマめが秀抜。 ちなみにこの病院の外貌は異様なまでの折衷建築であるのだが、なかでも「THE BYOIN」(p29-7)というおバカな電飾が異彩を放つ。だがそれだけに終わらない。両さんが行って「車からアキカンをすてる、電車内でタバコを吸うなど極悪非道な」「最強悪犯人、前科85犯」、「悪山殺五郎」(p37-5)と間違われる銭湯・山歯湯の看板は、「THE SENTO」(p38-3)なのであった。
同じく[人間顔じゃない]、p32-5~33-1まで、三コマも用いて御都合主義を自己ツッコミする過剰さがよい。「本物の交番勤務とは全然ちがうじゃねえか 話にあわせて労働時間が異なるな!」
◎箴言集
- 「一億兆円現金で持ってこないと泣くぞ!…と叫んでまして」「うーむまるでタラちゃんだな」 (p17)
ところで、このタラちゃんはアニメ版。長谷川町子版のタラちゃんは、もっと傍目からシニカルさを醸し出しており、アニメ版のようなキャラづけはありえない。というか、まんが版とアニメ版の決定的な違いは、アニメ版タラちゃんはその感情や行動に同化することは容易だが、まんが版タラちゃんは大人の読者たるわたくしたちにとって、徹底的にその心情が読めないところに存在意義が持たされている。アニメのタラちゃんは、決して原作のタラちゃんが体現している「おそるべき子どもたち」の代表ではない。
「たべ物の入口を調べるには出口を調べる! アインシュタインの左手の法則だよ」「はあ」(p30)
「これを徳川家康の"左手の法則"といい顔が右むけばちょんまげも右むくという理論です」 左手の法則が本当に好きだな。
「フェアレディZです」 「どういうデッサン力してるの? あんた」「狂ってますかね? こっちがホンダのZです」 「ほとんど同じじゃないの?」「いやリヤウインドウの形が少しょうちがっていて……」「ここもだめなムードだな」(p186)
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38巻 |
■麗子の犬
- 派出所で飼われているあの犬をさしおいて登場する、この室内犬([たまらんワン!])は、「動物ってのは自然に身を守るようにできてんだよ/それを女がバカみたいにあまやかすから野性味がなくなっちまうんだよ」(p14-1)という理念の表明のために召還されてきたものと思しい。そしてこの犬は、たくましく成長する。麗子はこの成長してしまった犬をどうするのだろうか…。
- 「エビ天?
が 田 べー たい」(p16-2)
ところで、ジェスチャーをする犬、といって、わたくしにまず思い浮かぶのは、わたくしの世代の「ジャンプ文化受容」においては、まずまちがいなく『奇面組』のラッシーなのですが(たぶん)、今回調べてみると、意外な事実が。[たまらんワン!]は初出1983年51号なのですが、ラッシーのジェスチャーの一番おもしろい回と時期的にものすごく近接している。
- 「「一」!?/「道化」ね!
「のれん」!「ジュワッ」!? 「はくジョー」!?「で」! 「め」「死」 「モーロク」「ニッ」 「たべさせて」「クレーン」!?」(『ハイスクール!奇面組』7巻(1984)、「お散歩ラッシー」p64)
「一堂家の連中は薄情でめしもろくに食べさせてくれん」であるが(このジェスチャーは、豪くんには180度級に誤解されるのだが、抱腹絶倒のその誤解は、読んでない方は読んでのお楽しみ。ちなみにわたくしは豪くんの誤解するセリフもそらで言えます。もっともジェスチャーの解釈の誤解は、すでに『三年』のスキー編などでも用いられてはいる)、この回の初出が1983年47号であった。 そうか、この時期の『派出所』は、『奇面組』が乗りに乗ってるあの時ぐらいか。
■部長
- 人事院でテキストにもなったとも噂される(?)、[両さんのジンジロゲ]。
「なるほど歩合制だったのか……」「ふうやったやった!」(p34-1)と、完全に歩合制と理解してしまっている両さん、説得できたと信じてやまない部長、どっちの勘違いの可能性も危惧している客観的な立場の麗子と中川、の三者の絶妙。 さらにいざボーナス期になっても、「本当はおまえのボーナスは八百四十万円」以下、【汗】もなにも付されず、完全に両さんを手玉にとっている部長。この冷静さがいい。 こっからの3ページの部長、両さんとはあまりに対比的な、あまりに普通のテンションが、むちゃくちゃ笑える。そしてきわめつけは出ていった両さんと【汗】が付されていちおう心配はしている中川・麗子に対して、完全に背中を見せるのみで「かまわん放っておけ」の一コマ。たまらない。
■中川
- 前巻でイメチェンした中川だったが、この巻では元の服装にいつのまにか戻っている([マイベストカー])。その理由は謎。カラーにあわせたのか。わたくしは、このアメリカンスタイルの中川はかっこいいと思っているので、もとの長髪にもどったのは残念だった。
●その他ノート: サンタクロースに扮装した人たちが12月24日に一斉に集う「全国サンタクロース仮装大会」(([両さんのホワイトクリスマス])であるが、はたしていったい、何のためにこの大会が開かれていたのか、いまだに疑問である。 ◎箴言集
- 「同じころこのBMWも上半分ヤスリで粉にされて……」「う~~む ねちっこさ以外にねばり強さもかねそなえているな」(p56)
この回ではじめてデボネアを知る人もきっと多い。いまでもたまに走っているようではあります。
「公務員のバイトは禁止されてるのでしょう!」「いや大丈夫です 私は警察官の特待生なので認められております!」(p89)
「となりの車に「止まれ」とおどされた時おすスイッチ」(p169)
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39巻 |
■両さん
- 「両さんたらい回し編」として、わたくしたちに特別な意味を持って記憶せられる一巻。その原因は「地下発掘事件」「船の大暴れ事件」「葛飾署爆発」(p120)。一話完結かと思っていたらつながってた。
駄菓子屋の店番を頼まれる[路地裏物語]、ブリキのおもちゃを探して回っている二人組に対し、「あいつらみたいのが下町のおもちゃ屋荒らすんだからな」(p33-6)と批判的。 別の話では両さんも同様の行為をするし、そもそも下町おもちゃネタをやってもいるので、『派出所』自体が、「下町のおもちゃ屋荒らす」作品ととらえるような立場もあるかもしれない。ここでの両さんのセリフは、そういう見方をされることに対して、荒らす側ではなく、守る立場であることを示そうとするものかとも思える。まあ、 「おもちゃなんて直せば何年も使えるんだ」(p39)という一方で、プレミアのつくおもちゃやまんがは別ルートでかけひき上手に売り抜ける、という二面性を見せてもいるのだけれど。 なお、この回は、立派な「子ども向け消費者教育」の役割を果たす回でもある。「ガキとはだまされるために存在するものだ」。ほんとに小中学生各氏はこの言葉を覚えておいたほうがよろしい。
ところで、35巻の「■両さん」の項でも触れたが、両さんの眼を描く下の線が、上向きの弧になっているのが、この回の最後のページなどにも特徴的な例としてわかる。 で、目の描写についてもう少し言えば、上下二本の線で目の輪郭を描くだけでなく、右目のばあい一筆で「C」というかたちに輪郭を描き、黒丸で黒目を入れる、という目が頻出するようになる。くわえて、「 ∩ ∩ 」眼の両さんもかなり頻出(この回では例えばp21-6)。 これだけでなく、ほおの部分に、上下3、4本の線(ドラえもんのひげの短いもののような)が付されてくるのも特徴だ。いささか丸っこい顔、かわいらしさが少し与えられた目やほお。30巻代後半は、絵柄の変化がわりと容易に看取される巻々であると思われる。
■部長
- なんといっても、富樫義博『幽遊白書』(集英社)でも引用されたことでも有名(そうか?)な、この一言だろう。
- 「両津へのみやげはわしの笑顔で十分だ!」([桃太郎ポリス]p170)
悪気があったり冗談めいた口調ではない。彼は本気だ。 放出した両さんにおそらくは心底嬉しく思っていながら、しかし気になってしまう。といって結局両さんとぶつかる。
- 「わしはひとりの人間としておまえに制裁を加える!」([銀座の春]p152)
でもなんだかんだで馬を逃がす主因であるにもかかわらず知らんぷりを決め込むあたり、なかなかの悪党だ。[3/3パーティ]で見せた立派な態度はどこ行ったのだという疑問をそこはかとなく抱かせながら、わたくしはこの二度にわたりごまかす部長がかなり気に入っていたりもする。
■寺井とインチキ不動産屋
- インチキ不動産屋の名前が「羽生」であると判明。
寺井家捜し編の二回目であり、パターン化の兆しを見せている。寺井は家捜しで疲れ果て、かつての肥満体ではなく、痩せ細ってしまっている([もしも我が家が…])。 『派出所』を語るとき、彼をこの「羽生」という名前で呼ぶ本やサイトが多いが、わたくしとしてはどうしても「羽生」という名前より、「インチキ不動産屋」という呼称がなじむ。
■犬
- なつかしの犬が、p111で登場([魔の給料日])。これ以降の登場は確認されていない。
◎箴言集
- 「まるで青島幸男のいじわる婆さんじゃないか」(p31)
なつかしいなあ、火曜ドラマスペシャル。
「よしなかなか活気がでてきたぞ!/活気のある駄菓子屋ってのも珍しいな」(p32) 一人でつっこんでるのがなぜかおかしいのだが…。
「開かぬならこのまま通ろう勝鬨橋」 (p97)
「本人は本物の警官だといっていますが警視庁ではまったくみしらぬ男で「警官にあこがれた変質者でしょう」といっています」 (p101) 警視庁のみごとな措置。
めいさいしょう 年金代1,500 サービス税2,500 テーブルチャージ5,000 ボトル代15,00 (p110) ちなみに両さんが明細書を「めいさいしょう」と認識していることも知れる。「警察官」を「軽殺管」と書いていたよりはマシといえるが。 なおこの「完璧なまでの偽装工作」(by両さん)が見破られたあと、必死に泣きつく両さんに、全く動揺せず淡々と金をとっていく三人の描写がすばらしい。
「なんたる自堕落な生活 非番の時こそ勉強せねばいかんぞ! ローマ字を習うとかかきとりをするとか!」 (p134)
「今日はなん年のなん月なん日だ」「昭和59年4月1日です」 「うーむそうか まだ昭和43年の夏だと思ってたが…」 (p164) この人、さいはて署がつぶれたあと、まともに異動できたんだろうか…。
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40巻 |
■部長
- この巻で部長と両さんのやりとりといえば、部長の家で寝泊まりする[寄宿生活!?]でありましょう。
部長の表情がいいのだ。
- 「だれか草むしりをしてくれるとよいのだがな こういう場合はすすんでやる人がいるはずだが約一名 たとえばタダメシをくったりしてる男が……」
「わかりましたよ!やりゃいいんでしょ!」「おやすまんね 自発的にやってくれるとは…」(p107-4)
部長の表情には、どうも両さんを相手に楽しんでいる心理ってのがどこかにじみでているように感じられるのです。 また、別の観点から思うのは、ここから数年たったあとの両さんは、こういう目にあったとき、復讐をするんじゃないかな、ということである。でもここでは物語は淡々と過ぎていく。いや、もちろんこの時期でも、部長宅で復讐しようとする両さんがないわけではないのだけれど、この回の、イヤミをいわれながらも淡々と過ぎていく展開も、この時期の部長と両さんとの関係にあっては、べつだんムリのないものなのである。 ところで、部長の奥さんは、一貫して両さんのよき理解者である(両さんを締め出す回もあるが、そのときは部長もいっしょにしめだしている)。
中川との関係は、ごく初期を除いては、人情派の上司と有能な部下といったところだが、両さんを尾行する[ブラック・リスト]では、
- 「中川よろこべ浅いぞ!」(p131)
と、意外にムチャゆう部長が楽しい。中川のふりまわされっぷりが、いつも両さんにされている様子に、けっこう似る瞬間だからだ。
■石頭課長
- 二度目の登場([オバサン族])。
- 「人が話してるのに聞かぬとはなんだ てめえ! ひと思いに楽にしてやるか!? おう!」「ひい! すすみません! ごめんなさい」
「なめやがって若造が! では話を元にもどそう 交通安全の基本その1 すぐカッとなる短気ではいけません」(p13)
ベタな展開だとわかっていても笑ってしまうのは、後ろ姿と丁寧な言葉づかい。
●その他ノート: 松山兄弟というネーミングのモデルが鳥山明の「アシスタントの松山くん」であることがわからなくては、少なくともこの時期の『ジャンプ』読みとはいいがたい。それはさておき、マニアなキャラのフィギィアが珍重される世界が当たり前になっていく現在だが、その紹介としてはさきがけに位置するのがこの回、[改造人形コンテスト]ではないか。 「そんなもん日本中で50人くらいしかしらないよ!」「その50人がたのしめればいいんですよこういう物は…」(p54)という会話は、現代のわたくしたちの姿である(というともっともらしい)。ところでp51-1の大西巨人のプラモなんて誰が買うんだ。
そういった意味でいえば、[アニメ戦国時代!?]に登場する、アニメファンも、まさに「オタク」に「オタク」という名の与えられる前夜を示している。 とはいえこの回、ビルから出てくるアニメーターをあててしまう両さんが、アニメについてまったく無知というのはいささかムリがあるのではないか。
本巻では、インチョキ堂の店主、東大卒の法条など、のちにもチョイ役として登場するキャラクターははじめて見える巻でもある。
◎箴言集
- 「赤信号も一時停止もふみこえてただひたすら我が道をゆく! その名も高きオバサン族だ!」
「これか…現代の王蟲というのは……」(p21) 真顔でボケないように。おもしろいじゃないですか。
「おまえに囲碁を教えてやる」「いや! あれは…マーブルチョコみたいでつい口の中に入れてしまうので……」(p39) 気持ちはとてもわかる。 それにしても、まさか囲碁がこんなに―それもこともあろうに『ジャンプ』が発火点となって―子どもたちのなかでブームになろうとは、夢想だにできなかったろう。
「先輩は小学校卒でありながら巡査長という地位まで出世するという木下藤吉郎のような人間と……」「完全にバカにしてるな」(p103)
「すいません全日本アニメ同好会の者ですが!」「いた!あの人は演出の木沢さんだ あの人は原画の山沢さん! あの人は小川さん……」 「きみたち見学は中止してるんだって!」「機関紙「アニメ命」のインタビューを!」「あの人は山沢さんであの人は…」「日本のアニメ史は東映動画における…」(p87)
「とぼけるなっ 八万円貸してくれとたのんだろ!」「とんでもない 猫のハチマンくんが子どもを産んだという話をしてたんです」(p125)
「そして「火よう日には戦車にひかれるので注意しろ」って!」(p161)
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(2002/08/14。2021/09/22再録、一部割愛。)