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『GS美神私注』(最終回):「地上より永遠に!!」「ネバーセイ・ネバーアゲイン!!」編(39巻)

あるいは、美神悪霊編。過去の話との対応が随所に敷かれ、原点回帰の最終回。

■「地上より永遠に!!」
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「あった……! 前のまんまだ、道路標識…!!
ここで私──/最初に横島さんと会ったんだ…!」
 この回は、1巻第1話、[美神除霊事務所出動せよ!!]と対応している。
 落石注意の看板は、1巻p12-1。ちなみに、おキヌに向けて岩が落ちてくるコマ(p87-5)は、その擬音とあわせ、横島に岩が落ちるコマ(1巻p14-3)に対応している。

 この標識は、『極楽』を前期と後期に分ける結節点といってよい[スリーピング・ビューティ!!]でも一回振り返られている。
「俺、この標識のところでおキヌちゃんと初めて会ったんスよ!」(19巻p179-4)
「この上…/横島さんと初めて会ったところ…」(20巻p136-2)
 横島のセリフに対し美神が「へえ…!」と言っていることからわかるように、標識は、横島とおキヌが出会った場所であって、厳密にはここに美神は介入していない。

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「さっきは、わざと幽体をずらしてみせたのよ。」
 [スタンド・バイ・ミー!!](23巻)では、幽体と実体とがズレてしまうことに目をつけられ、おキヌは霊団に襲われたのだったが、今回もそれと同様かと見せかけつつ、実際はおキヌ自身が意識的にそのように見せていたことが知れる。
 その意味で、p91-3は、二度読むべきコマ(一度目…ズレに気づく幽霊、気づかないおキヌの危機。二度目…ズレに気づかされている幽霊、気づかせようと意図するおキヌ)である。

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「私の体に乗り移っても、もうあなたには戻れないよ。本当にそれでもいいなら…/それがわかっても悲しくないなら──」
 手をにぎるおキヌ。

 おキヌは、『極楽』のなかで、<死>と<生>を司るキャラクターとしての位置づけがあるといえ、これはその総収ともいえる話。

 なお、ここで幽霊を説得してしまうおキヌは、次話[ネバー・セイ・ネバー・アゲイン!!]にて、横島によって、
「そんとき金のために力ずくで除霊されんのはやだなぁ。おキヌちゃんみたくやさしく成仏させてほしいですよ。」(p147-4)
と、美神とは対照的なものとして位置づけられる感があるが、おキヌの価値観の淵源は美神のセリフに見出すことができ、その意味ではおキヌは正しく美神の弟子ということにもなりましょう。すなわち、
「夢は人の心に必ず残るものよ!/それが素敵な夢だったのならなおさらでしょ? 指から水はこぼれても手のひらにはしずくが残るわ──」
「美神さん…全部…全部知ってて…」「幽霊のまま元どおりでいるより、生きて、かすかにでも何か心に残っている方が意味があるの。」([スリーピング・ビューティー!!]20巻p176-2)
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「さよなら…!/またいつか──命になって戻ってきてね…!」
 「さよなら……」(1巻p33-1)を思い起こさせるが、そちらは「あの…つかぬことをうかがいますが、/成仏ってどうやるんですか?」とオチる。なつかしい。

 なお、この1巻の「さよなら」は、
「俺だって…俺だって…/別れたくないよ…!!
だからさよならはナシだ!!」(20巻p177-2)
でも踏まえられている。

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「本当に楽しかった。/みんなありがとう──って、」
 おキヌが博愛的存在であることがうかがえる見開きコマ。[スリビュ]でもそうだが、呼びかける相手が「みんな」であるところがポイント。この件に関しては、[ジャッジメントデイ!!]34巻p38-3の項を参照されたい。

 なお、[ファイアースターター]以降、いないことになっているはずのルシオラたちがいるので世のルシオラファンたちは少しだけ溜飲を下げることでも有名な一コマ。

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「(みんなにもらった命…/その日まで精一杯生きたよって。)」
 上でも触れているように、この回は、1巻第一話[美神除霊事務所出動せよ!!]、また19~20巻[スリーピング・ビューティー]と対応する。最終ページ、三者そろい踏みのコマは、構図・内容ともに、第1話の最終コマの描写と対応している。

 ただし、正確に読むならば、1巻1話の最終コマの背景では、日がずいぶん高く昇っているが、[地上より永遠に!!]最終コマの背景は、昇りゆく朝日の見える「朝焼け」にリライトされていることがわかりましょう。この、日中の太陽から朝焼けへの変化は、積極的に読みとるべきことのように、思われます。

f:id:rinraku:20201206212545j:plain(p98-1)
 このコマは、客観的な描写である1話とは異なって、おキヌの心内語とともに示されていることから、おキヌが思い出している映像であるはずだ。つまり、じっさいは日は高く昇っていたが(1巻)、その当時を思い出すおキヌの記憶では朝焼けになっている(39巻)ということになる。

 これを考えるに、山から下りて美神と横島についていくあの瞬間は、彼女が新しい世界に踏み出せた瞬間であり、それ以来「いいこといっぱいあった」日々を過ごすことができてきたのも、つまりはあの瞬間があったからである。昏い闇から輝く朝の光へと移りゆく朝焼けとは、その一歩踏み出した瞬間の状況を象徴するものとしてふさわしい。あの瞬間が朝焼けだというのはおキヌの記憶ちがいではあるのだけれど、それだけいまの彼女におけるあの瞬間への思い入れがわかることになる。300年の自分にとっての昏い<闇>から、<光>のなかに連れ出してくれた瞬間だったという思い。しかしながら、300年の<闇>もまた、単純に消し去ってそれでよしとすることもできないのであって、辛かった<闇>も輝かしい<光>の生活も抱え込んで、いまの彼女が在る。そういう思い入れがあって、彼女はあの瞬間を、まるで自分を象徴したような朝焼けだったと記憶している、と読みたい。

 ■「ネバーセイ・ネバーアゲイン!!」
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「だからこそ金になるのよ!/日本にはもう幽霊を住まわせておく土地なんてないんだから。」
 初期『極楽』でのナレーション(横島)、「もはやこの日本に幽霊を住まわせる土地など無いのだ!」を踏まえる。

 最終回「ネバーセイ・ネバーアゲイン!!」。ただし、おおかたの認識では、この一話(二回)のみを最終話とはせず、「地上より永遠に!!」もあわせて、最終二話(三回)として位置づけられている模様。妥当な認識だと思う。

 最終回にありがちな回想シーンは[地上より…]に譲り(なお、『極楽』に関して、重要な箇所でのコピー乱用に対してはげんなりすることもあるのだが、この回想シーンは、回想シーンにもかかわらずそれぞれの絵を書き直している点、とても良い!)、[ネバーセイ…]では、これまでの悪霊退治という基本構成を正反対にひっくり返してみせていて、そのひっくり返しようが、やはり『極楽』という作品の比喩になっているようで、最終回にふさわしく楽しい終わり方だと思います。登場人物たちのその後を描くのも最終回の常道だけど、よりによって200年後ってのも、その後過ぎるだろ!っつうツッコミ待ち。

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「俺にはまだ心残りが──!! 教えてくれッ!! あの女は俺のかッ!? ちがうのかッ!?」
「いーからおまえも来いっ!! 往生際が悪いわよっ!!」「文字どおりの意味ですね。」
 この三人の関係がよく表れている2コマ。

 なお、おキヌには「慣用句属性」というものがあって、その積み重ねの末に最終回でこう言うのが趣深い。

 「慣用句属性」については以下のとおり。
「あっそーか!「逆鱗に触れる」っていう言葉の意味は…」ぽん([ドラゴンへの道!!]3巻p90)
「さすがですね── こういうのを「カエルの子はカエル」って…」([何かが道をやってくる!!]5巻p54)
「お野菜を水で濡らせば長保ちするようなものね…!!」([スリーピング・ビューティー]20巻p85)
「大丈夫!! 昔とったきねづか!! 幽体…離脱っ!!」([甘い生活!!]33巻p47)
「ぶっ、ぶらっくほおる~~~!?」「…って何?」([Gの恐怖!!]27巻p26)
「ニューヨークってどこですか!? 遠いんですか!?」([グレートマザー襲来!!]29巻p79)
「…体張って笑いとって、「オイシイ」とか言いますね。」([ザ・ショウ・ゴーズ・オン!!]36巻p150)
「あっ!! そーいえば「天の川」って英語で…」ぽん 「たしかに「ミルクの道」って言うわね──」([もし星が神ならば]38巻p148)
慣用句やことわざだけではないものも含めたが、これらのセリフは、おキヌの、きまじめで、しかしちょっとピントがズレていて、しかしそこがかわいい、という性格づけにたいへん有効に機能している。

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「バッカねー横島クン!! 死んだあとのこと心配してちゃ、人生楽しめないじゃん!!/私の信条は──
現世利益/最優先!!」
 形こそ異なるが、前話[地上より永遠に!!]のおキヌの心境と同軌のもの。

 これにて『GS美神極楽大作戦!!』、ひとまずの完結である。ここでの美神の格好は、連載当初の「イケイケバカ女」の象徴であるボディコンであり(連載中盤ぐらいから美神はボディコン以外の服装をすることも少なくなくなる)、原点に返った1コマといえる。

 なおわたくしの気が確かならば、最終コマは連載時は1ページであった。見開きは、単行本収録時に描き換えられたもの。

 (2003/08/17。20/12/31再録、語句修正。引用は椎名高志『GS美神 極楽大作戦』(小学館少年サンデーコミックス>、1992-99)、文中で同作の画像の引用をする場合はkindle版による)