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ローグネーション。言葉と図像を手がかりにまんがを「私」が「読む」自由研究サイト。自費持ち出しで非営利。引用画像の無断転載を禁じます。

『GS美神私注』:「GS美神’78!!」編 (37巻、38巻)【再録】

あるいは、美智恵活劇編。若き日の美智恵、唐巣神父をめぐる一編。

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「僕が説得しました、お父さん!! 何があってもたったひとりの父親じゃないですか!」「君は娘の恋人の……!?」
 この話はひさびさに、横島が美神に対して煩悩キャラとしてはたらいている。この場面の横島は、アシュ編がなかったかのような、かつての横島のような、ふるまいを見せています。
 とすると、アシュタロス編がなかったことになっているという結論がどうしても引き寄せられてくるのだけれど、むしろ、そのためにまるまる二巻弱の時間を必要としたことのほうを、私は注意しておきたい。

 そして、横島はそれとして、一方の美神はついに横島との恋愛感情を物語上に見せることはないまま終わります。何度か触れているように、それは<ルシオラの呪縛>と言い表せるようなものでありましょう。そうであるならば、直情型の美神美智恵を語るこの話は、美神を語りつづけるかぎり停滞しつづけなければならない物語を(とりわけ色恋関係ありの物語を)なんとか前進させるための、代行的な措置と読むことができましょう。
 じっさい、全てに積極的な美神美智恵は、ちょっとノりすぎではないかというぐらい、生き生きと描かれているように思います。

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「いやッしかしッ…!!/~~~~~~!!」
 前々ページから二ページ弱にわたって延々本気の横島は、ひさびさによろしい。
 この二ページ弱のどのコマの横島も、その目が一コマでも【おちゃらけ目】をしていたら、おもしろくもなんともなくなってしまうだろう。妄想してかつ勝手に独走つうか疾走つうか遁走、が良い。
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「最初、どうしようかと思っちゃって……! ホラ、最近いるじゃない?/徹夜してまんが映画に行列するような人…!! 今流行ってる「スター・なんとか」の仮装かなんか家でしてるのかと──」「……」
 「オタク」に「オタク」という名の与えられる前夜。「まんが映画」がいい。

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「…………」
 この沈黙のコマは、具体的には「あなたは今、信仰が揺らいでいる。/「なぜ神は我々をこんなめにあわせるのか」…とね。」(p132-1)につながります。

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<豆知識>
『GS美神』はフィクションですが、一部実在の人物をモデルにしています。
 このへんの、逆手にとるしたたかさ。
 単に78年ネタってだけじゃなくて、良くも悪くも椎名まんがが高橋留美子的世界との通底を指摘されることは容易に想像がつくわけで、煩悩キャラに【おちゃらけ目】なんかはまさにそうなのですが、それを裏返して出すクッセツしたリスペクト表明がここになされている、ということになりましょうか。

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「ひとり子を与え、悩める我らを破滅と白昼の悪魔から放ちたもうた父!!/ぶどう畑を荒らす者に恐怖の稲妻を下し、この悪魔を地獄の炎に落としたまえ!!」
 そのかっこよさを言えば、その直前のコマが上からの視点で、そこからページを繰るとそれが、追って落ちてきた唐巣神父の視点だったことがわかる、ってところ。

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「!!/主よ…!! 感謝します!!」
 背景の弧のベクトルを持つ流線。

  ビルから落ちてくるアクションシーンの連続であったことともちろん不可分に、この数ページの展開は、ずっと縦のベクトルを持っていた。そこにクレーン車が闖入する。クレーン車の横のベクトルは、これまでの縦のベクトルの展開にとって意外な偶然であるが、その偶然に佑けられ、かつ、それを天佑と受け止め自らのものとした瞬間の唐巣神父のコマが、縦から横への孤を描かせる。そう言えましょう。

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  そして、十字を切る唐巣神父。公彦との会話で神への不審が問題系として物語に提示されてきていたが、強いられ続けてきたその抑圧が、しかし一瞬のうちに解放される。抑圧からの一瞬での解放は、読者にとっての快楽にほかならないのはいうまでもない。
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「じゃ、神さまと仲直りしたのね?」「まーね。あの夜は…何もかもできすぎだったからなあ。
きっと我々は、出会うべくして出会って、やるべきことをそれぞれがやったんだ。/僕は今また主の御心に信頼を寄せているよ。」
 それぞれでは解決しようがなかった困難さを抱えていた、それがここで二つのケースが混ざり合って、それは困難が二乗になったようで、けれど混ざり合ったことで解決の糸口が見える。

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「逆噴射──ッ!!」
 機長。さすがに<豆知識>にはしなかった。それはデリカシーというべきものです。

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「俺はタカだ──ッ!! うわはははは──ッ!! あんな一撃でこの俺は……」
「か、神よっ感謝しますうううッ!!」
 十字を切る唐巣神父。

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[その7]で十字を切る唐巣神父(上述)の、【対応とその元のパロディ】。
 ここで、ご都合主義的な展開であることを物語があえて読者に自覚させるかのように、<ギャグ>的にさきの<シリアス>的展開(それもそのいちばんのかっこよいページ)を繰り返させることで、このシリーズのキリスト教色の強さを、うまい具合に相対化しているといえます。

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ギャキキ
 p28-3と対応しているのはいうまでもありません。

 

(2002/05/11。03/08/17新訂。20/12/7再録、語句修正。引用は椎名高志『GS美神 極楽大作戦』(小学館少年サンデーコミックス>、1992-99)、文中で同作の画像の引用をする場合はkindle版による)