あるいは、物語世界再出発編。シロの復帰、タマモの登場に向かう数編である。
■「ドリアン・グレイの肖像!!」
01 11 1
「モデルは女性がいいと思います!! できればヌード!! せめて水着姿ってのはどうでしょう!?」
このセリフからは、ルシオラの死を抱える者としての横島を、一分も感じとることができない。物語はそのように描かれ始めようとしている。そのためのいくつかの、儀式のようなコマ・セリフの、一つと思われる。
儀式としてのコマ・セリフについては、「ファイヤー・スターター」編にもいくつか敷設されていると見ることができましょう。その最たるものは、かつてルシオラとパピリオが住んだ屋根裏部屋を燃やしたことであることはいうまでもない。
アシュ編以後の<ギャグ>の水準は、「ファイヤー・スターター」と「ドリアン・グレイの肖像」がいまいちだったことで(例えば「学校に来たのは浮き世ばなれした感じの先生で──/厄珍堂のはカリカリした雰囲気の女………」の書き分けがよくわからない)、いささか分の悪い感があるが、それ以降は、例えば26~28巻あたりのテイストに近くて、おもしろいと素直に思います。
しかしながらやはり、ある種の割り切りが前提として必要であることは、アシュ編に至る横島成長譚に耽溺してきた読者にとって、否めないところではあるのではないでしょうか。
■「賢者の贈り物!!」
01 53 1
「はッ、/今使ったお札はいくらの──!?」
おキヌ版「ただいま修行中!!」(11巻)といえる。
ちなみにこの回は、椎名作品ではおなじみ、「SUNDAY」少女が登場している。短編「はじめてのおつきあい」(『㈲椎名百貨店』所収)は名作。
01 56 1
「…よく考えたら、借金をかたがわりなんて…まちがってました。/どんなことがあったって死んでそこから逃げようなんてよくないんですもの…」
生と死とに関わるおキヌ(参照、23巻p87-4の項)。この回は、おキヌがメインだけれど、美神、横島、おキヌの三者がよく絡み合っていて安心して楽しめる回。マッチ売りしてみたり。
■「フォクシー・ガール!!」
01 61 4
「「金毛白面九尾の妖孤」通称「九尾の狐」!!/かつて中国とインドを壊滅的な混乱に陥れ──平安時代に日本に流れてきた妖怪だ…!」
タマモ登場の回。
参照、「ストレンジャー・ザン・パラダイス!!」28巻p25-5の項。
02 91 2
「それを解決するのもGSの仕事なのよ。」「え…?」
異世界の仲立ちとしてのGS、という位置づけが、美智恵によって明言される。
もとより、GSたちは、必ずしも異界のモノと対立してきたわけではなかったが、中盤から物語の展開を促していた「神」対「魔」の対立がアシュ編をもって事実上終結したことで、物語を展開する別の軸が求められてきていることが、この美智恵のセリフには示されている、と受け取ることができようか。
むろん、この路線と美神とは(とくに金が絡むと)ぶつかるし、それが見どころとなっていくと思われるが。
02 94 2
「ま…すぐに仲良くなろうったってムリですね……!」
「バレンタインデーの惨劇!!」(27巻)いらいの、【鼻水】のおキヌ。みかんをむきかけの生活感。多く言われているところであるが、おキヌは横島宅で一晩明かしたことになっている。
■「マイ・フェア・レディー!!」
01 106 2
「大丈夫、おキヌちゃん!! おキヌちゃんは美神さんみたくバッタもんじゃないからっ!」「誰がバッタもんよ!?」
農協の人たちも、おキヌには興奮しているのに、美神には「(ウ…ウソくさいっ!!)」ってのもけっこうひどい。ヨゴレ街道まっしぐら(参照、27巻p22-3)。
01 109 1
「強力な暗示呪法を使うわ!/あんただからこそ、バカバカしい幻想の女性像になれるのよ!!」
抜き出せば、こうなります。
・果てしなく男に都合がいい
・優しくなんでも善意に解釈
・浮気しても怒らない
・包容
・母性
・年をとりません
・愛
・ウンコなんかしない
・エッチだけど純情
さて、この挙げられた項目をつなぎあわせると、全くそのままにその通りだとは言わないけれど──ルシオラなのである。客観的に見ると。
もともと『極楽』の世界観は、<少年まんがに求められる理想の女性像>をズラしてきており、ルシオラ事件を終着点とする横島成長譚ではそのズラしからいったん離れたようであったけれど(参照、31巻p38-1の項)、この巻ではそれをズラしの地点へ引き戻そうとしているのではあるまいか。
この回の内容も、また「マイ・フェア・レディー!!」の引用タイトル自体も、「バカバカしい幻想の女性像」に、自己ツッコミなしに溺れている世界に対して、かなりの揶揄が感じ取られてよろしい。
■「ザ・ショウ・ゴーズ・オン!!」
01 119 4
「進歩しとるっ!! ちゃんと呪いがかかるよーになってるぞ!!」
丑の刻参りに見せかけてアセチレンランプ。
02 149 4
「ひとこと「がんばったわね」と言えんのかっ!!」「がんばりましたね、横島さん…!!」
美神不在の状況で、横島とおキヌがドタバタしながら協力して解決、というのは、これまでにもいくつか見受けられましたが、「賢者の贈り物!!」やこの回あたりで、改めて基本形の一つとされかけているように見受けられます。
■「沈黙しない羊たち!!」
01 168 3
「かんにんや~!! しかたなかったんや~~!!」
これも久々に聞くセリフ。横島のひととなりを最も表すセリフであり、上述の、ギャグまんがへと復帰するための「儀式のようなセリフ・コマ」の一つ。
ここ数回の美神の欲望っぷりはすごいが、そのカウンターとして、横島のこの回。どっちもどっちなのは、「他人のならぜんぜん平気なんだけど!」(p162-5)のコマや、「立場が逆だったら自分が何をするか考えると──/命もあぶないっ!!」(p166-2)の、絶妙のセリフ回しでわかります。
■「白き狼と白き狐!!」
01 182 2
「シロ!!」
ごく個人的な感想でいえば、なんでここで【おちゃらけ目】なのかがわからない。「デッド・ゾーン!!」でのやりとり(このテンポ、かっこよい)に似るけれど、相手がタマモであると知っているからとはいえ、この横島が【おちゃらけ目】は馴れ合いを感じさせて、寛い心で読めません。ほかの箇所は、なんとかわかるのだけれど。わたくしは存外心が狭い。
04 51 5
「シロ……!! すまん──俺もすぐおまえのところに…
……/やっぱイヤだッ!!
こんなところでさびしく死ぬのはイヤだああッ!!/せめて女の胸に顔をうずめて死にたいッ!! 神さま──ッ!!」
すっ… 「はっ!!
神さまありがとうッ!! どこのどなたか存じませんがその胸の中で死なせてください───ッ!!」
横島の真骨頂のようなセリフが続々と続く巻である。
04 58 1
「おまたせv 何が終了ですって?」「のわっ!?
な、なんだあああーッ!?」
「タマ切れね……!!/そいつを狙ってたのよ……!!」
巨大女というジャンルがある。そのルーツは、巨大フジアキコ隊員である…かもしれない。会田誠ですな。
タマモの、クールな女の子キャラとしての再登場。シロの再登場はかなり久々だったけれども、この二人の対置はうまい。タマモのようなクールな女の子キャラはこれまでの『極楽』ではあまりなくて新鮮であり、かといってタマモ一人では能動的に話が動いていきづらうだろうところに、シロが挑発するorシロと張り合うという条件づけをしてやって、物語はうまく動いていくという結構。
このハナシ自体も、けっこう脂が乗っていておもしろい。
04 63 4
「無事解決できたのは二人のおかげだ!!」
GS美神極楽大作戦・女子中学生編、スタート。
(2002/04/03。03/08/17新訂。20/12/6再録、語句修正。引用は椎名高志『GS美神 極楽大作戦』(小学館<少年サンデーコミックス>、1992-99)による)