あるいは、南極謎の爆発編。対アシュタロスで、美神とルシオラが共闘する一編である。
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「バベルの塔……!!」
天(神)に届かんとするアシュタロスの野望の象徴。
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「ベスパ! パピリオ!?/無事だったのか!? 殺されたんじゃないかと心配──」「黙れ、裏切り者!!」
ベスパの【汗】は、いったんは横島と親和した彼女じしんの葛藤を、さりげなく表す(p16-5も同じ)。
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「横島の気も知らねーで、調子こいてんじゃねーぞっ!!」
登場当初から、雪之丞は横島への過大評価っぷりを前面に出していたキャラであるけれども、一面、いざ物語がシリアスに動きだすと、結局は雪之丞の横島評価も過大でもなんでもないことがわかるという逆転がそこにはあったりもします。してみると、シリアス面だけでいけば、雪之丞は小竜姫と同じく(位相はやや違うが)、結果的に横島を適正評価していることになるわけである。
そんなわけで、横島の同伴成長キャラとしてはほかにピートやタイガーもいるのだけど、この場面で横島のパピリオたちへの気持ちを慮ったセリフをキッとした表情で言えるのは、まずは雪之丞が適任なのでした。
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「…このいやらしい戦い方がおまえらの正義でちゅかっ!? やっぱり人間嫌いーっ!!」
あいかわらずズラすのが好き。
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「まった!! そーはいかないわ!!」
いわゆる「大岡裂き」(『らんま1/2』)。
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「……! 美神さん………!!」
横島の【口】が開くのは、期待されてこの場に在ることを美神の言葉に感じ取るから。
「この場にいていいのは戦士のみ!!」(21巻p29-5)(ワルキューレ → 横島)
「素人が手を出したら無事じゃすまないわ。」「!」(31巻p61-2)(美神母 → 横島)
という「期待されてないわたし」というプロセスのあとに、この美神の言葉「横島クンは私たちの切り札──!!」は置くべきだろう。「わたし」、つまりはアイデンティティの問題である。
しかもそれが、これまで横島を面と向かっては決して評価しなかった(できなかった)、美神の口から語られることは大きい。
ちなみに「切り札」の語は、美神母の「横島クンだけが、そこをクリアする切り札を持ってる。」(31巻p104-3)という発言を直接は承けるが、美神母はあくまで、文珠を「切り札」と称したのに対して(もちろん彼女も横島をしっかりと評価しているのだけど)、ここでの美神は横島じしんを「切り札」と呼んでいる点も注意したい。
その意味ではこの美神のセリフは、先の美神母の発言の直後、ルシオラのセリフ「ふだんは、どう見てもたいした奴には見えないのに───期待されると、あっというまに不可能なんかのりこえちゃう。まるでトランプのワイルド・カード!」(31巻p108-5)(横島じしん=「ワイルドカード」)にむしろ近い。
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「おまえは私の作品だ。 私は「道具」を作ってきたつもりだったが──おまえは「作品」なのだよ。/このちがいがわかるか?」
以降、「私もまた造物主に反旗をひるがえす者。 おまえは私の子供…私の分身なのだ。」(p68-1)と続く。一方で読者に、じゃあ三姉妹はどうなんか?という疑問を誘発させもするセリフであろう。4項目下を参照のこと。
なおいうまでもないことだが、「デッド・ゾーン!!」編での菅原道真のメフィストへのセリフ、「どのみち、おまえは使い捨ての働きバチにすぎんのだ。不良品は捨てる…それだけよ。」(22巻p119-2)を承けます。
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「横島クン……!? 何やってんの、出力を──」「…………」「ヤ…ヤバい!? 横島クンの意識が…!!」
「煩悩」で出力が高めたはずが、美神とのシンクロが進みすぎてうまくいかない。
これを読み解くに、──まず、美神との「シンクロ」の「とろける」ほどの快楽が、横島に他のことなどどうでもよくさせてしまい、うまくいかない。
「シンクロ」と「吸収」との相関関係がよくわからないのだが、35巻を念頭に置きながらいえば、霊力はシンクロさせても、互いの意識はしっかり別々に持っていないと、波長の同期→相乗とはならず、単なる波長の一致になってしまい、効果なし、ということになるのだろうか。
さて、実際に合体するコマの描かれ方を見てもそうだけれども(p88~p89。男が後ろ、女は前)、この同期連係・合体は、セックスを暗に示していると読み換えられます。で、この一回めの試みは、「同期」という試みじたいに欠陥があって失敗したのではなく、横島が意識を失って出力を上げられないことが失敗の原因になって、アシュタロスに通用しない、という流れをとっている。この横島は、つまり早くて(「実戦でテンションが上がってるんだわ!」p94-3)失敗している。いみじくもルシオラは「初めてはみんなそーよ?」(31巻p35-4)なんて言ってましたが、横島の「成長」はまだまだ途上にあるのである。
と同時に、美神のリードがうまくいっていないことでもあるのだけど。たぶん。
さてそうすると、いくぶん先走りますが35巻の同期はどう読めるのか。少なくとも横島が意識を失うわけではないので、それを横島の成長(心の成長に伴う肉体の成長。……端的に言ってしまえば、経験を積んだことでセックスが上手くなっている)と見てよいと思われる。だが、そこからさらに、横島の力はオーバーフローしていく。横島が完全に主導権を握る(しかも美神は一切表れなくなる)。
少年まんがをズラしてきたはずの『極楽』は、この瞬間、「少年まんが」的「少年」に望まれる「成長」の頂点へと達したことになる、と言えるのではないでしょうか。まて35巻。
06 108 1
「人間に生まれかわって──あいつとまた会って、 一緒にバカやってきて…… 楽しかったな…」
この回想されるコマも『極楽亡者』。
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「……… なんのマネだ? / ルシオラ……!」
上にアシュタロスの「作品」発言を挙げたが、造物主に反旗を翻した者はじつはもう一人いる。それが誰あろう、ルシオラであった。ところが、ルシオラとアシュタロスの葛藤はなぜか描かれない。
なお、メフィスト≒美神が反旗を翻したことについても、「作品」云々を説くアシュタロスは、なぜメフィストが反旗を翻したかについて、自分(クリエイター)との相似関係からしか見ていない。決して、翻させた主体である高島≒横島には目もくれていないのである。その横島に結局足もとをすくわれるのは、まったく道理なのでありました。
アシュタロスの相似の論理は実は片手落ちである。むしろ、ベスパの方が事態を正確に把握しています(「──メフィストはあいつの前世のために裏切り──ルシオラも同じことを…!」p154-1)。
06 113 1
「私も一緒に──!! / 私… おまえが──」
びったーん!! 「ぶッ!?」
よく足をつかまれる人です。
とはいえ、つかんだ相手と共闘していくことになるのは同じ。
さて、ルシオラの独走っぷりがステキなページですが、セリフの「一緒に」というのは、直前で死を覚悟した美神のセリフ、「(一緒に終わるのも、/悪くな──)」(p108-3)と対応している。しかしながら、口に出せるか、出せないかが、大きく違う点でありました。
06 114 1
「なーにがあんたのためよ!? これは私の因縁なのよ!! せめて三歩下がっとれ!!」
千年も昔のこと持ち出して正妻ヅラしないでよっ!! 年増ババァ!!」
「あんた今、なんのために闘ってるかわかってんの!?」「誰、あんたは!? 彼は今、私のために──」(31巻p109-3)でもそうだったが、アシュタロス対横島を軸に、美神(/メフィスト)とルシオラとの、対応関係が示されていきます。
06 118 1
「──!」
いまだかつて果敢に美神のほっぺたをつかみにいった女性キャラがいたろうか。
07 133 3
「アシュタロス……… パワーにパワーで対抗しようなんて─── 俺たちみんなバカだったよ。」
単純に【片目隠れ】がかっちょいい。
パワーでは圧倒的に勝る相手に知力を尽くして勝つ、というのは、これも単純に、燃えます。
07 135 1
「!!」
「アドバイスどーもっ!! 「能力をコピーしたまま逃げられると面倒だ」って今思ったでしょ!? あんた、頭もいーなッ!!」
この構図、のちに
「「両手に花」が俺の好みだしっ!!」([ジャッジメント・デイ!![その8]]34巻p110)
というように、「両手に花」状態。
08 146 4
「…………」
「アシュ…様。」
アシュタロスのいう通り、メフィストの反逆がアシュタロス自身の反逆の、作品としての具現だとすると、ではこのベスパはどうなのか。
ベスパが反逆するわけではないが、かといって、ベスパのアシュタロスへの奉仕・服従は単純なものではない。このコマの少し前、「私、決めました! アシュ様が何をなさろうが──最後まで見届けます!」(p146-1)というベスパのセリフを見れば、それは明らかだろう。この発言からは、意志のいかんによってはアシュタロスに服従しない余地もあることが逆にわかる(もちろん「10の指令」の規制はあるのだけども)。そこを寄り添っていこうとするのは、単に部下だからというのではない、アシュタロスへの情愛があるからだ。
そうすると、アシュタロスが抱えてしまった、魔族にふさわしからぬ優しさ・愛おしみが、変則的なかたちで、ベスパに体現されているともいえる。ベスパもまた、「道具」ではなく「作品」なのである。アシュタロスのこのコマの表情は、その内心をさまざまなかたちで読者に推し量らせるものだが、ベスパへの愛おしみとともに、いま述べたような、ベスパに体現された魔族にふさわしからぬ自己像にまで見据えその皮肉を感じて、見せる穏やかな表情なのではないか、とわたくしは読む。
(2000/10/27。03/08/17新訂。20/11/28再録、語句修正。引用は椎名高志『GS美神 極楽大作戦』(小学館<少年サンデーコミックス>、1992-99)による)