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ローグネーション。言葉と図像を手がかりにまんがを「私」が「読む」自由研究サイト。自費持ち出しで非営利。引用画像の無断転載を禁じます。

『GS美神私注』「マジカル・ミステリー・ツアー!!/キツネの変奏曲!!」編その他 (38巻、39巻)

あるいは、タマモ成長編。美神が不在であるうえで、物語がどう展開されるかが楽しめる数編。

■「呪い好きサンダーロード!!」
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「コ・ノ・ウ・ラ・ミ…/ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ──ッ!!」
 いうまでもなく、藤子不二雄『魔太郎が来る』が元ネタ。コマ枠が太いのも擬音の文字も、もちろん『魔太郎』を踏まえたものである。A先生ネタについては、すでに『猿』が引用されてもいた(27巻p48-2参照)。

 ちなみに、この前のコマ、「金でやとわれて悪人に味方する悪徳GSめええええ──ッ!!」という彼のセリフは、あながち、というより全然、まちがってない。万札をしっかりとっている。
 彼の暴走的なやり口はシロにたしなめられるわけだが、横島の「悪徳」自体は、呪いの発動によってきちんと報復される。少年まんが的因果応報。

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「死にてぇのかバカ野郎──ッ!!」「うるせえッ!! こっちは交通弱者じゃ──ッ!!」
 免許持ってないマイノリティの心情が、ポジティヴに示される捨て台詞。こうしたマイノリティの開き直りぐあいが、けっこう椎名まんがの楽しみ。「教育的指導!!」はそれが前面にあふれていて名作なのである。

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「そ、そうかっ!! 忘れていたが俺のパワーの源は煩悩っ!!」
 「忘れていたが」について。世界を救ってしまうまでの展開になったアシュ編に対し、それ「以後」をどう構築し直そうとしているかについて、何度か言及してきた。このセリフなどは、そのほとんど最終的な手続きであると言えよう。ここに至り、アシュ編「以前」の、<煩悩少年横島>という、彼の、ギャグまんがの登場人物としてのアイデンティティが、さらっと復権する。

■「守ってあげたい!!」
■「もし星が神ならば!!」
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「我が名は──/織姫!!」
 女性陣のコケ方のちがいが一覧できる点でも興味深いコマ。

 ・ガニマタこけ──美神、シロ
 ・足揃えこけ──おキヌ、タマモ

 足の角度は、登場人物たちの性格の喩としてはたらく。

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「そ、それはヤバいっ!! ヤバすぎる──ッ!! 一刻も早く見つけないと──ッ!!」
 この美神の発言に加えて、
・おキヌ──「横島さんフケツ──ッ!!」
・シロ──「うわ──っ」
という三者三様のセリフから読み取られる意味あいについては、別に考察した。29巻p17-3の項、参照。
 これを踏まえたうえで、では、
・タマモ──「……」
というタマモの沈黙をどう解したらよいか。

f:id:rinraku:20201209165441j:plain(p130-3)

 三人が三人で盛り上がっているなかに、このクールなタマモの視線があるのであって(「……」P130-3)、これを、タマモの性格ゆえと言ってしまってもおもしろくない。横島との関係を特に求めてもいない唯一の者として、ほかの三人の勝手な<妄想>を、かえって際立たせる意味あいが強い、と読んでおきたい。タマモは、三人が三様の<妄想>を繰り広げていることにこそ、半ば呆れた視線を向かわせるのでありましょう。ある意味、彼女は、着実に「人間社会のことを学習」(37巻P20-4)しているわけだ。かなりのハイレベルで。

 タマモについて。
 いったいに、物語を通して見るとき、タマモの性格描写が一貫していないようにも見えるけれど、人間世界への関わり方に応じて性格が変化していくと捉えれば、むしろ一貫してないところに意味があることがわかってくるように思われます。が、とはいえ、クールさとすっとぼけた感じが入り混じっている37巻ぐらいがやっぱり(それまでの『極楽』の他のキャラクターには見えない)味があって、よろしい。

 

■「史上最大の臨海学校!!」
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「フランスのダイバー ジャック・マイヨールは100mまで潜ってるから大丈夫よね!」
 ジャック・マイヨール氏は2001年に逝去。
 それはさておき、けっきょく横島が圧倒的なパワーをもって敵を倒して終わり、という構造になっている。この回、わりとすきなのだが、書くことがとくにない。

 臨海学校をついに誤解しつづけるタマモについては、「人間社会のことを学習」(37巻p20-4)しているという流れのなかに置くべきセリフでもある。

 ■「マジカル・ミステリー・ツアー!!」
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「ここは本物のお化け屋敷で──しかもGSを無力化する空間ってことじゃねえか…!!/もし何かあったとしたら…シャレにならんぞ!!」
「………」「美神さん、金のためになんてことを…!!/こんなお化け屋敷、冗談じゃ──」
 この美神は、はっきりいって須狩と茂流田と同レベルである。
  「魔物は決して人間の天敵ってわけじゃないわ。/必要なら闘うけど──時には協力もするし人間と対等なのよ。一方的にもてあそんでいいはずがないわ。
命がけで魔物たちと向き合ってきた者じゃないとわからないでしょうけどね。」(「サバイバルの館!!」編、24巻p38-2)
こう諭したのは、ほかならぬ美神本人であったはずなのだ。おかしい。
 ちなみに、最初のころの美神は、「低級霊」にも、金を払って雇っていたのだった。
  「時給500円でやとった低級霊よ!」「俺より給料いいのかよ…!?」 (「狼たちの死後!!」編1巻p83-4)
 初心を思い出してほしい。ここで美神は、報復を受け、またおキヌに諭されて、いちおう因果応報の構成にはなっているが。

  ○  ○  ○  ○

 「アシュ編以後」の物語は、アシュ編があまりに大河ドラマ的展開だったことにより、以降「強大な敵」は登場しにくく、そのなかで物語が展開するためには、美神や横島たちの側に大きい欠陥があり、そのことが引き金になって……、という方法が、主にとられているように思われる。
 「アシュ編以前」にも、金に汚い美神、煩悩に負ける横島、というパーソナリティが引き金になっていたことはたしかなのだけれど、アシュ編で見せた両者のポテンシャルの大きさ(「世界を救ってしまう」ほどの)を承けざるをえない「アシュ編以後」のそれは、やはりその相貌をいささか変えていることは疑いない。
 言い換えれば、「アシュ編以後」の物語には、美神と横島の能力が強すぎるだけに、その危機の出来と解決への経緯とに、一定の工夫が求められているということになりましょう。
 しかし、その工夫として、当編で美神が「魔物」を「おもちゃ」にすることを持ち出してくることには、いささかの違和感を禁じえないという評は、下してもよいように思われる。

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「「ひとり千五百円で……」」
 もちろん笑うところである。

 ■「キツネの変奏曲!!」
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「意味もなく盛り上がるお祭りさわぎに──/乗るとおもしろい…ただそれだけの全く無意味な乗り物……
画期的だわッ!! 人間ってこーゆーくだらないことにかけてはサイコー!!」
 クールなタマモの、意外な一面が垣間見える。

 ところで、このタマモのセリフは、裏を返せば、人間世界のことを知ったかのような、高踏的な立場に立ったものである。
 そういうタマモの態度は、織姫登場のときの、美神、おキヌ、シロを見るタマモの視線(上述)にも見出すことができるといえましょう。たぶん、タマモは、美神もおキヌもシロも、横島になぜか好意を持っていることを見抜いている。ツッコミ的に冷ややかな視線だけれども。
 冷ややかな視線のタマモは、あくまで人間社会の観察者であり、観察から足を踏み出して自らを投げ入れようという姿勢ではない。

 けれども、それは態度としてであって、タマモの登場する回は、たいてい、クールさが描かれる一方に、人間世界(美神たち。あるいは人間ではないがシロ)のさりげない優しさに触れるタマモ像が差し挟まれもしてきた。タマモ物語は、「アシュ編以後」の、人間世界と非人間世界との橋渡しという、美智恵によって示されたテーマ(らしきもの)を、ほとんど唯一のかたちで担っていることになる。

 で、「キツネの変奏曲!!」は、その流れのなかのひとつである。といって、別段、タマモの成長譚の終了と位置づけるつもりはない。むしろ成長譚というもっともらしい言い方をしてしまうとつまらない。だがとりあえずは、そういうタマモ物語の流れにあって、そのなかでもっともきれいな挿話たりえていることは、言っておきたい。
 この挿話では、タマモというキャラクターに期待される在り方が、ホントよく出ているし、それと十分に組み合うかたちで、少年まんがの基本中の基本である「少年」が、(多少定型的ではありながらも)さりげなく美しく描かれえている。
 「少年まんが」は、レンジの広さはいうまでもないけれど、その始発から現在に至ってさえ、この挿話が描きえているような、さりげないささやかな叙情が、確実にある世界でもある。 

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「あの──」「大人ひとり千六百円です!!」
 いうまでもないが、
  「このアトラクションはCチケットです! 大人ひとり千五百円になります」 「ピンチでデート!!」編19巻p153-3)
と対応している。値上げしているのが芸がこまかい。

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「うん……」 きゅっ
 真友くんの差し出した手をつかむタマモ。
 ところで──「きゅっ」??
 どこかで聞いた擬音語だ…。

 手を差し出した相手につかまるとき、そこには、助ける側/助けられる側、という関係が生じる。
 タマモは、じっさいは真友くんより年上で、しかも妖怪であって、力量的にははるかに上である。にもかかわらず、正体を明かさず、虚構の関係(助けられる側)にまだ身をゆだねようとしようとしている。それを象徴的に示す表現として、この「きゅっ」はあろう。

 虚構の関係を続けようとするタマモ。真友くんを傷つけないようにしたい気持ちが、その第一の理由であろうが、もうひとつの理由を考えてよい。
 すなわち、タマモが子どもとして屈託なく真友くんとデジャブーランドを楽しむのは、ふだん演じているクールさを、周りを気にすることなく脱ぎ捨てていることでもある。
 ここで真友くんの言葉にしたがって変身を解かないのは、普段まとっているクールさを、まだ脱ぎ捨てたままでいたい、というタマモの心情ゆえであるということを、理由の二つめとして認めてよいように思うのである。

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「今、近くの弁護士事務所で調停してる。 …その間、僕にはここで遊んでこいってさ。
……サイテーだよ……!!/親が別れる相談してるんだぜ……!?/そんな時に遊んで──おもしろいわけないじゃないか……!!」
 真友くんは、短編「発展途上帝国MORO」(『(有)椎名百貨店』3巻、1994)で登場した主人公と同姓同名同容姿であるが、おそらくはスターシステムに基づいた登場であろう。「MORO」での両親の関係からは離婚を想像するのはむずかしい。

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「あんただって本当のこと見せないじゃん。あいこだよね。」「え…!?」
「男の子だからってがんばってばっかいちゃってさ。/笑っていいコにしてなくていいじゃん!
悲しいんだったらさ、泣いたっていいのに……!」「!」「男のコでもさ……!」
 「マジカル・ミステリー・ツアー!!」のB面としての「キツネの変奏曲!!」であるけれども、タマモとシロというコンビということを考えるとき、お姉さん立場の女の子が、弟立場の男の子を諭すという構成に共通項を見出すならば、「呪い好きサンダーロード!!」との両A面としても読むこともできようか。

 タマモ物語に話を戻そう。
 本当の姿を隠している点において、真友くんと自分とは同様であることが、ほかならぬタマモによって言及されている。
 そして、ここでタマモは、真友くんに、強がって本当の姿を隠さなくていいんだ、と声をかけている。対話のなかで、真友くんの大人ぶった強がりを見据え、泣いていいのだと許すタマモであるが、じつは、そうやって真友くんの「本当」を見据えることができたということは、はじめの人間を敵視していたタマモからは考えられないなのではないか。
 これまでの人間世界とのかかわりのなかで培ってきたことがバックグラウンドとしてそれを可能とさせるようになった、と読みとることができると、思われる。であるとすれば、それがタマモの成長である、といえもしよう。

 さて、さらにもうひとひねりさせて読み取ってみたいことがある。
 すなわち、「本当の姿を隠す=虚構の姿をまとう」ということについてである。図式化すれば、
真友くん:
本当のこと=両親が別れるのが悲しい → 虚構=男の子だからがんばる

タマモ:
本当のこと=中学生あるいは妖怪の自分 → 虚構=小学生の姿
  しかしここにはねじれを見てとってよい。タマモは、もしかしたら、虚構の姿をまとうことによって、普段のクールなふるまいを脱ぎ捨てられていたのではないか、という仮説が成り立ちうるのだ(上述)。
 真友くんに、虚構を脱ぎ捨てていいのだ、そういうときがあってもいいんだ、と諭すタマモだけれど、それを認めてしまうときとは、タマモもまた中学生に戻らなくてはならないときであり、そのままタマモと真友くんの別れのときだということになる。そして、中学生あるいは妖怪の姿に戻るという年齢の問題での別れとともに、自分を解放できた一日の交流という心情面でのさみしさもまた、タマモは抱えるのではないか。
 そういった、タマモにおける二重の訣別を踏まえるとき、最後の風船を眺めるタマモの描写は(この眼は、完全に中学生タマモの眼になっている)、いっそう意義ぶかいものとして読めてくるのではないか。そのように思うのである。

 あれ、まてよ? そうすると、最終話での妙に明るいタマモは、クールにふるまう不自然さを克服したタマモの真の姿ってことになりかねないな…。最終回の妙に明るいタマモはよくわかりません。

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「いや、年じゃなくてさ…/妖怪……」「じゃ、約束のしるしに交換だ!!」
「……
……うん!」
 夏の終わり、花火、別れ、という叙情。ベタではあるけれど悪くない。

 さて、ここで「交換」をしていることは意義深いことだ。「交換」の成立とは、原則として両者が対等な条件にあることを示すものであろう。ここでかたくなに「交換」を求めようとする真友くんとは、タマモにいつまでも対等な小学生同士でいてほしい、という欲求を表している。
 そしてタマモも、それがわかるから風船を「交換」する。けれどもおそらくは、二人ともたぶんもう会うことはないことをわかっているのではないか。優しい眼でありながらしかしそれは中学生のそれである最後のタマモの表情から、そう言っていいように思うのである。 


 『GS美神』は、残り三回を残すのみになった。
 というわけで、以下、独断と偏見に基づき、「アシュ編以後」の各編について、簡単にまとめておきたい。

  トラブル 解決者 美神 備考
ファイヤースターター ひのめ。 美神(作戦)、横島(実行)。 解決者(作戦)。 屋根裏部屋焼失。
ドリアン・グレイの肖像!! 紅井緑、横島。 美神ら。 解決者(実行)。  
賢者の贈り物!!   おキヌ。 不在、サポート。 おキヌ版「ただいま修行中!!」。
フォクシー・ガール!! 美神。 a:美神(作戦)、横島、おキヌ(実行)。
b:美神母子。
金を優先して依頼受ける。 タマモ登場編。
おキヌ外泊疑惑。
マイ・フェア・レディー!! 美神。 ひのめ。 同上。前回の反省なし。 おキヌカマトト疑惑。
ザ・ショウ・ゴーズ・オン!! 銀ちゃん。 美神(失敗)、横島とおキヌ(実行)。 解決せず。途中から不在。 美神チームのチームワークおよび横島の本質の強調。
沈黙しない羊たち!! 横島、金を優先して美神に迫る。 法王(?) 途中から追われる。 欲望の横島、復活の印象。
白き狼と白き狐!! 切り裂きジャック タマモ、シロ。 監督者的立場。 シロ・タマモコンビ黎明編。タマモ、人間世界を知るため美神の預かりに。
GS美神’78!! 吾妻公彦。 美神美智恵、唐巣神父。 「えっ、まさかこのまま?」 恋を描けない美神物語を美智恵が代行か。
呪い好きサンダーロード!! 横島、金を優先して因果応報。 シロ、横島。 不在。 シロ説諭編。
横島煩悩再認編。
守ってあげたい!! タマモ。 シロ(実行)、美神(作戦)、横島(援護(笑))。 解決者(作戦)。 シロ・タマモ友情編。
もし星が神ならば!! 織姫。
横島の煩悩。
美神、おキヌ、シロ、タマモ。 解決者。 タマモ観察編?
史上最大の臨海学校!! 六道女学院。 美神(作戦)、横島(切札)、冥子、エミ、シロ、タマモ、六道女学院のみなさん。 解決者(作戦)。 シロ・タマモ協力編。
マジカル・ミステリー・ツアー!! 美神、金を優先して非倫理的行為。 おキヌ、横島。 被解決者。非倫理的行為。 おキヌ横島接近編。
キツネの変奏曲!! 同上。 タマモ。 不在。 タマモ慕情編。

 美神不在で横島とおキヌ活躍のパターン、また、タマモとシロ活躍(およびハートフル路線)のパターンが、かなりしっかりと目指され、美神はむしろ名サポートか、トラブルメーカーかとしての位置づけが強くなってきていることがわかる。
 とりわけ、37,38巻に関しては、タマモ率が高く、それも、「知らない」タマモが「知っていく」、というひとつの軸が確立されようとしてきているようであることも、指摘できるだろう。 

(2002/07/19。03/08/17新訂。20/12/30再録、語句修正。引用は椎名高志『GS美神 極楽大作戦』(小学館少年サンデーコミックス>、1992-99)、文中で同作の画像の引用をする場合はkindle版による)