振り返る時間もないままに忘れてた。定点観測的に挙げる。順不同。
僕ヤバが260万部売れているなら、三島芳治『児玉まりあ文学集成』は26億部売れてもおかしくない。4巻待ってます。
0,長田悠幸・町田一八『シオリ・エクスペリエンス』(スクウェア・エニックス)
アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」が盛り上がりを見せていくのと連動して、ツイッターのTL上で『シオリ・エクスペリエンス』のファンたちが、次はこれ読め的布教をしていたり、やれ次はこれをアニメ化してくれ、と、いやアニメ化してくれるな、アニメ化は無理だ、とあっちこっち行っていたりしていたのを見た。まったく同感であるが、たぶん「ぼっち・ざ・ろっく!」勢はそんなことを言っても読んでくれないと思う。でもとてもわかる。
1,はまじあき『ぼっち・ざ・ろっく!』(芳文社)
アニメが底抜けに良かったので、現在刊行分全巻買ってむさぼるように読んだ。おもしろかった。ところでアニメから入ったので「リョウ」と呼称していたが、まんがを読むと圧倒的に「山田」としか呼ばなくなる自分がいるな。またはYAMADAか…。
コミックス今年完結のなかから。世界観がよろしい。彼女たちが工房の魔女であることが塔の魔女たちから疑われているのがよろしい。強い魔女たちがみんななぜか律儀に「多華宮君」呼びなのもよろしい。この作品のおかしみが何かに似てるなと思って記憶を探っているのだけど、案外、佐々木倫子『動物のお医者さん』あたりなのかもしれない。
3,三原和人『ワールドイズダンシング』(講談社)
かなり良かったのに、打ち切りなのか、かなり急ぎ足でまとめられた。惜しい。ただ、作者がやりたいことを全然やりきれなくての打ち切り、とばかりは言い切れない感じもある。長く続けるには難しい題材だということもあるのかもしれない。
同じ能楽を扱ったものとしてのアニメ「犬王」もそうだし、少し時代はさかのぼって傑作『逃げ上手の若君』もそうだけれど、ここのところ中世が、頭でっかちではないかたちでポップにエンターテインメントで扱われるようになってきた流れはおもしろい。室町周りの新書が売れ、歴史研究も、80年代前後あたりの中世ブームとはまた別の形で進んできているのも大きいようである。
4,河添太一『不徳のギルド』(スクウェア・エニックス)
ギルドとかスキルとかチートとか、なに最近のまんが、その知らない単語を当たり前のこととして話を進めてくれてるんじゃい、という自分が、その手のもののなかで読めるのは、『異世界おじさん』とこれ。
ライトなエロはそれとして、自分が楽しめるのは、ギャグが知的でおもしろいのと(単発の会話劇で笑いをとるだけでなく、一話の中やシリーズ全体の中での構成を用いて笑いを作るのがべらぼうにうまい)、シリアスとの往還がかなりうまくいっているところによる。マスラオウ・セイテン編で、初めて本当に怒るキッ君の回は、なかでもかなり気に入っていて、考えてみると今年刊行の巻なのでここで挙げた。
5,青木潤太朗・森山慎『鍋に弾丸を受けながら』(KADOKAWA)
今年のベスト1を選べといわれたらこの作品。めちゃんこおもしろい。博多の話が好き。
この作品を読んでから、やたら女の子しか出てこないまんがやアニメに接すると、実はみんな男の美少女化なのではないかといぶかしむようになった。
神化魔炎竜までアニメがいくかどうかハラハラしていたが、別の意味でハラハラするとは。(コロナ由来で2度の延期)
コミックスは最初から読んでいるが、ここ数巻は、本当に画力が神がかっている。こういう表現をどうやって思いつくのか、あるいは思いついてもどうやったらこういうふうに本当に絵に落とし込めるのか…。いや、すごいよこれ。
8巻の裏表紙は「浮かれきったエルフを見守る、新たな旅が幕を開ける!」であった。これ以上的確なキャッチコピーがあったろうか。
7, D・キッサン『神作家・紫式部のありえない日々』(一迅社)
紫式部周りはけっこうまんが化されているのだが、変なファンタジーや対立構造を捏造せず、史実に足をおきながらそのうえでよく遊んでいる感じがしてよい。24年の紫式部を主人公にする大河ドラマの出来次第では、私はこの作品を原案にすればよかったのに!と言い出す可能性がある。
8, りょん『地雷なんですか?地原さん』(一迅社)
地雷女設定が早速破綻しているのに、めっぽうおもしろいのは、黒木くんが実は地原さんに輪を掛けた優しい異常者というところで、この作者何者?と思うのだが、この作品は、あまり外野が面白い面白いとはやしたてない方がよい気がする。長く続いてほしい。
笑い目表現史研究家(?)としては、2022年にあってこの作品での「^^」の笑い目の位置付けられ方が、ものすごく興味深い。
9, 押切蓮介『ハイスコアガール DASH』(スクウェア・エニックス)
3巻で俄然おもしろくなってきた。日高が仕事のうえでも覚醒していっているのがよい。のだけど、ハルオ登場は意外。どう転ぶか。4巻を待ちたい。
10,『僕の心のヤバイやつ』(秋田書店)
6巻が本当に良かった。
参考:『僕ヤバ』の語りと表現が楽しい② - "Logue"Nation
『僕ヤバ』の語りと表現が楽しい① - "Logue"Nation
次点, 冬葉つがる『窮鬼の仇花』(講談社)
初見で、天才あらわる…と思ったしそれは疑っていないのだけど、打ち切りっぽい感じで終わってしまった。なにしろ画力が凄いと思うし、題材もありそうでない領域を扱って意欲的だったと思うんだが、突き抜ける何かにやや欠けるところもあったように思え、打ち切りになったのはわかる気もする。とはいえ、かつて『カメレオンジェイル』とか『てんで性悪キューピット』とかを連載時におもしろい!と思っていた人間なので、次作以降を楽しみにしてるといいことがあったりするので楽しみにしている。
こんなところかな。
ほかにも、この人!という方々が紹介している、読んだら面白いんだろうな、という話題作や意欲作のタイトルは目にしているし、それらはまちがいなく面白いのだろうけれども、今年はあまりそこまで手を伸ばせなかった。手に入ったものを中心にした、ごく私的な十選になった。